最新記事

メンタルヘルス

なぜ断れなかったのか...「同意ある性交渉」でトラウマに苦しみ続ける女性たち

Blameless Sexual Trauma

2022年05月25日(水)17時07分
ヘイリー・マギー(ライフコーチ)
ヘイリー・マギー

今はライフコーチとして、はっきりノーと言えるようクライアントを導いている HAILEY MAGEE

<確かに拒否はしなかった。だが「同意あるセックス」が深い心の傷を残すことも。自分の許容ラインを見極めて相手に伝える勇気とは>

パーティーの場からどうやって抜け出し、車に乗り込んだか覚えていない。彼が運転する車は猛スピードで市外へ──大学の寮から遠く離れた場所へと向かっていた。

私は助手席でうわ言のように何かしゃべっていた。できることならすぐにもこの場から逃げ出したかった。

車は寂れた郊外の小さな家の前で止まった。「ここで待ってて」。彼はそう言って家に向かったが、すぐに戻ってきて運転席に滑り込んだ。「兄貴が大勢友達を連れ込んでいる。どっかよそを探さないと」。いら立ちをあらわに、暗い道に車を走らせた。

次に車が止まったのはモーテルの前。彼がフロントの女性を相手に値段が高いと文句を言っている間、私は黙ってビニール張りの椅子に座っていた。自分が薄汚れた安っぽい女になったような気がした。

部屋に入るとすぐベッドに入った。胃がキリキリ痛み、「嫌だ!」と叫んでいたが、今さらノーとは言えない。早く終わらせたい。その一心で彼に抱き付き、性的に興奮しているふりをした。

翌朝、彼は私を寮に送り、私たちはさよならのキスをし、笑顔で別れた。その学期の終わりまで私はずっと鬱状態で、アルコールに溺れた。

自分を性暴力の被害者とは思っていなかった

友達に話すと、決まって「なぜ断らなかったの」と言われる。体は「嫌だ!」と叫んでいるのに、なぜイエスと言ったのか。身の危険を感じたわけでも、強制されたわけでもない。正直なところ、なぜノーと言わなかったのか自分でも分からない。そして、今でも自分を責め続けている。

形の上では「同意あるセックス」だが、実のところは望まぬセックス。同意の有無を問題にするなら、これは扱いにくい事柄だ。物理的・心理的な強要はなく、喜んで同意したようにみえる。そのため「加害者」「被害者」といった文脈にはそぐわない。

2年後、断酒もし、セラピーを受け始めてからのこと。長い付き合いのパートナーとのセックスの最中、私は初めてパニック発作を起こし、その後も繰り返すようになった。

これには私もパートナーも当惑した。私は自分が性暴力の被害者だと思っていなかった。それなのに突然強い不安に襲われ、泣きじゃくる......。

性暴力が被害者に及ぼす心理的・身体的なダメージについてはよく知られているが、私が経験したようなトラウマはあまり問題にされていない。

けれどもインスタグラムで自分の体験をシェアすると、同じような悩みを持つ人たちから大きな反響があった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀の国債買い入れ、10月に10―25年ゾーンを減

ワールド

米移民当局の日本人拘束を確認、適切に対応=林官房長

ビジネス

アングロ・アメリカン、加テック・リソーシズと経営統

ビジネス

三菱電機、制御・運用技術セキュリティーの米企業を1
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    日本初の「女性首相」は生まれる?...「高く硬いガラ…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    「黒人を差別する白人」の動画を拡散されて、すべて…

  • 5

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 4

    日本初の「女性首相」は生まれる?...「高く硬いガラ…

  • 5

    話題の脂肪燃焼トレーニング「HIIT(ヒット)」は、心…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:世界が尊敬する日本の小説36

特集:世界が尊敬する日本の小説36

2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは