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偽物着用でNetflix出演。若い韓国人が高級ブランドに執着する切実な理由

2022年02月25日(金)17時55分
川和田周

満たされない人生を埋める一瞬の贅沢

かつては途上国というイメージの強かった韓国だが、OECD(経済協力開発機構)によると、2019年における平均賃金は4万2285ドル(約490万円)。2019年における日本人の平均年収は3万8617ドル(約450万円)。日本を抜いたのは衝撃だったが、韓国は「大卒貧困者の割合が世界トップレベル」の社会でもある。韓国の若年層の失業率は、OECD加盟国の中で、最も深刻な水準まで落ち込んでいる。韓国統計庁によると、2018年の全体の失業率は3.8%であるのに対し、若年失業率(15~29歳)は9.5%と2.5倍もの差がある。

ソウルにある中央大学校で社会学を教えるチュ・ウンウ教授は言う。「今、高級品の購入者は、どんどん若い人になっていますが、彼らに収入なんてそれほどありません」

ではなぜ、蓄えもせず、高価なものを無理して買ってしまうのか? という疑問が湧いてくる。

チュ・ウンウ教授によれば、若者はもはやお金を貯める意味を見いだせず、たとえ貯めたとしても経済的にはお先真っ暗なことは変わらないと考えているという。

1960年代から80年代にかけて、韓国経済は急速に発展し、1990年代にはOE.CDに加入したことから、韓国の経済成長は「漢江の軌跡(Miracle on the Han River)」とも呼ばれたほど、多くの雇用と機会を生んでいた。当時は一生懸命に働けば結果が得られる社会だったが2000年代に入ると、階層構造が硬直化。生まれながらの社会的地位から上を目指すことは難しくなった。要するに「労働の費用対効果が非常に悪くなった」と彼は言う。

両親や祖父母の世代が当たり前のように達成できたこと、例えば家を買ったり、真面目に働いて昇進して、社会的な地位を高めたりといったことが、今の韓国社会でははるかに難しくなった。諦めの境地だ。となれば、多くの若者は、ちょっと頑張れば買える高級品もしくはその偽物に手を出したり、流行のカフェで高価なコーヒーを飲んだりして、手の届く範囲で満足感を得ようというのだ。

日本も大して変わらない

日本も大して変わらない状況だろう。ラグジュアリーブランドのロゴバッチやマフラーといった小物、何十万円もするバッグにジュエリー(とはいえこれもブランドの商品ラインの中ではお手頃価格のもの)、そして精巧に作られた偽物を身につけているのに、洋服は安さが売りのプチプラ服というコーディネートがSNSで大量発生している。もちろん街にも。

そして、スタバの新作には目が無い。かわいいカフェもコンプリートしたい。カツカツな10代後半〜20代前半が、高級品が買えるのは時代の恩恵(かつて昔はラグジュアリーブランドの店舗の敷居は高かったがインターネットの普及によって若者層へ販路が確立した)もあるが、頑張れば買える。

リボ払いで購入したバッグを手にスタバの新作を飲む。そして、「ご褒美」にアフタヌーンティーに行き、撮影会が始まる。ネイルとバッグとジュエリーが写り込むように何度も何度も撮り直して、最高の一枚をインスタグラムに投稿し、「いいね」を送り合う。こんな瞬間を通じて、彼らは「人生の満足感の欠如を補う」。一瞬とはいえ、この世界では夢を見ることよりもずっと手に入れやすいものだから。

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