最新記事

不適切発言

「不適切発言をしたらクビ」が常識の、昨今のハリウッド事情

2021年02月15日(月)17時30分
猿渡由紀

民主党支持者も、差別発言でクビに

カラーノも、バーも、自分たちが受けた仕打ちは民主党支持者からの嫌がらせだと激怒し、反発した。しかし15年間もディズニーのCEOを務めてきたボブ・アイガーは、広告収入を稼いでいる人気番組を諦めてでもバーをクビにすると決めたのは「正しいことをしなければいけなかったから。政治的に正しいか、ビジネス面で正しいかではなく、純粋に正しいことをするべきだったからだ」と述べている。

また、ディズニーは、バーがクビにされたのと同じ2018年、民主党支持者の映画監督も、やはり差別発言のせいでクビにしているのだ。マーベルの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」を監督したジェームズ・ガンである。

ガンの場合、原因となったのは、その頃の発言ではなく、10年ほど前に彼が投稿したツイートだ。それらのツイートで、ガンは、AIDS患者や太った人を差別したり、レイプを肯定しているようなセクハラ的なジョークを書いたりしていた。今さらそれらを持ち出してきたのは、保守派のウェブサイトである。トランプと共和党支持者をツイッターで激しく攻撃してきたガンは、敵によってこんな形で報復を受けたのだ。

その頃、ガンは「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」3作目のために作業を進めていたが、マーベルの親会社であるディズニーは、「これらのコメントには弁護の余地がなく、わが社の価値観にそぐわない。したがって、彼とのビジネス関係を断ち切ることにした」と発表し、ガンの準備は無駄になった。

ただし、ずいぶん昔のツイートを持ち出されたことへの同情や、ガン自身が深い反省の言葉を発表したおかげもあってか、それからまもなく、ガンはワーナーに雇われ、今年公開予定の「The Suicide Squad」を監督している。その後には、これから製作が始まる「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」3作目にも、結局、再び雇われた。

「#MeToo」以降、大きく変化した

これらの動きは、2017年秋に起きた「#MeToo」とも無関係ではない。セクハラも、差別発言も、相手を軽んじ、傷つける行為だ。そこには被害者が存在する。そのような行動を、会社や組織は許してはならないという認識が常識化した。

「#MeToo」でも、ディズニー及びピクサーのトップだったジョン・ラセターや、アマゾン・スタジオズを立ち上げたロイ・プライスなど、「まさかこの人がこの会社からいなくなるの?」と思われる大物が、ばっさりと切られた。

だからこそ、変化が目に見え、人に希望を与えたのである。それが誰であっても特別扱いをせず、平等に処分してこそ、本気度が証明できるというもの。そうやって、正しい理念を行動でも示すことは、組織や会社が時代に乗り遅れず、生き残る上で、絶対に必要なことなのだ。

'The Mandalorian' Star Gina Carano Fired After Controversial Social Media Posts | THR News

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

野村、年内あと2回の米利下げ予想 FOMC受け10

ワールド

米関税15%の履行を担保、さらなる引き下げ交渉も=

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ上昇、米FOMC後の
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 4

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

  • 5

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 1

    「高慢な態度に失望」...エリザベス女王とヘンリー王…

  • 2

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 3

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 4

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 5

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:世界が尊敬する日本の小説36

特集:世界が尊敬する日本の小説36

2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは