最新記事

音楽

クルアンビンの摩訶不思議な魅力

To Sound Like The World

2020年07月13日(月)18時20分
デービッド・チウ

歌詞は3人の共同作業

アルバムの制作が行われたのは、テキサス州バートンの農場だという。「今回のアルバムがこれまでと大きく違うのは、べースとギター、ドラムの録音を農場の納屋でしたことだ」と、リーは言う。「そして3カ月後に再び集まって、ボーカルや他の楽器の音を追加した」

最終的な仕上げまでに時間があったから、リーは歌詞を書くことができた。ただ、最初からボーカルを加えるつもりだったわけではない。「べースとギターとドラムを軸にあれこれ付け加えて、しっくりきたものを追加しようと思った。それでボーカルを入れてみたら、いい感じだった」

歌詞は当初、リーがノートに書き付けていた思い出をべースにしていたが、すぐに3人の共同作業に変わった。

「それぞれの曲を聴きながら、ノートをめくって、ぴったりの単語やフレーズに印を付けておいた。それをマーク(スピア)とDJ(ジョンソン) に見せて、3人で歌詞を書き始めた」と、リーは言う。

ボーカルは3人で担当するから、それぞれの視点に合った歌詞にする必要があった。私の個人的なラブソングだったら、マークが歌うことができない。全員になじむ歌詞にする必要がある。私たち3人に染みる表現なら、どんな聴き手も共鳴できるだろう」

音楽的には、『モルデカイ』は典型的なクルアンビン・ワールドだ。アルバム2曲目の「タイム(ユー・アンド・アイ)」は80年代前半のディスコ音楽調で、リーの父親にインスピレーションを得たという「ディアレスト・アルフレッド」は、60年代のR&Bを思わせる曲だ。ほとんど歌詞がない「シダ」と「ワン・トゥ・リメンバー」は、ダブのリズムにスピアの渋いギターの音が光る。

「コネセ・ド・ファス」は、セルジュ・ゲンズブールへのオマージュとも言える遊び心あふれる1曲だ。フランス語のコーラスをバックに、かすれ声の2人の男女の会話がかぶさる。「映画俳優になったつもりで録音した」と、リーは振り返る。「タバコを吸うふりをして雰囲気を出した」

NW_KAB_03.jpg

アルバムにはS・ゲンズブールへのオマージュ曲も ULF ANDERSEN/GETTY IMAGES

リズミカルで陽気な「ソー・ウィ・ウォント・フォゲット」は、リーがアルバムで一番気に入っている曲だ。「どこか懐かしい響きがあるから」と言う。

コロナを成長の機会に

「私は子供の時、『ネバーエンディング・ストーリー第2章』という映画が大好きだった。その中で、登場人物は願い事がかなうたびに、思い出を忘れていく。そしてついに最後の思い出を失うことになる。それが子供心にとても悲しかった」

「だから『私たちは忘れない』という意味の曲を作った。思い出を忘れないでいる一番いい方法はなんだろうと考えたとき、書き残すことだと思い至った。書いておいたり、誰かにその話をしたりしないと、だんだん思い出は忘れていってしまう」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏10月消費者物価、前年比+2.1%にやや減

ワールド

エクソン、第3四半期利益が予想上回る 生産増が原油

ワールド

イスラエル軍、夜間にガザ攻撃 2人死亡

ビジネス

米シェブロン、第3四半期利益は予想超え ヘス買収で
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 3

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 4

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 5

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 3

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 4

    【独占】「難しいけれど、スローダウンする」...カナ…

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 1

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 4

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 5

    日本初の「女性首相」は生まれる?...「高く硬いガラ…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:高市早苗研究

特集:高市早苗研究

2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える