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脳裏にこびりつく生々しい証言 少女を食い物にした男の正体

Giving Voice to the Victims

2020年06月18日(木)18時20分
ケリー・ウィン(ジャーナリスト)

被害者の女性たちは沈黙を破り、エプスタインの犯した罪を糾弾する COURTESY NETFLIX

<被害者たちが赤裸々に告白。目をそらす隙を与えない衝撃の映像と証言>

アメリカの大富豪ジェフリー・エプスタインは常にメディアを騒がせてきた。2019年夏に少女たちへの性的虐待や売春斡旋の容疑で逮捕。その約1カ月後に独房内で謎の死を遂げた。公式発表では自殺とされたが、さまざまな臆測が飛び交ってきた。

ネットフリックスのドキュメンタリーシリーズ『ジェフリー・エプスタイン:権力と背徳の億万長者』(全4話)は、彼をめぐるストーリーに新たな光を当てるべく、彼の被害者だと名乗り出た女性たちの証言を掘り下げていく。

エプスタイン本人の人物像にも時間を割いている。ニューヨークのエリート層の間では有名な富豪で、セレブや歴代大統領とも交流があった。一方、裏では未成年の少女らを相手に性的虐待と買春を行い、しまいには国際売春組織を運営していたとされる。

前半の2話は彼の生い立ちにも触れる。巨万の富を築いた経緯と経歴詐称の事実が明らかにされ、その過程で視聴者は彼の表向けの顔を見る。

【参考記事】法廷で裁かれる性犯罪はごくわずか......法治国家とは思えない日本の実態

しかし本作の主役はエプスタインではない。監督のジョー・バーリンジャーがほとんどの時間を割くのは、被害者の女性たちの証言だ。

一部の女性はエプスタインとの出会いを詳細に語る。ニューヨークで働かされたという女性や、高校生の時にフロリダ州パームビーチにある彼の自宅で性的マッサージをさせられたという女性もいる。

彼女たちの証言は強烈で衝撃的で、感情を揺さぶる。ネットフリックスの実録犯罪シリーズ(『殺人者への道』『無実─The Innocent Man─』 など)のファンで暗いテーマに慣れている人でも、最後まで見るのはきついのではないか。細部をクローズアップし、目をそらす隙を与えないのだ(毎回冒頭で、未成年者に対する性的虐待の映像が含まれる旨の警告が表示される)。

バーリンジャーにしてはちょっと意外だ。連続殺人犯を扱った過去2作(ドキュメンタリー『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』、映画『テッド・バンディ』)はエンターテインメント色が強かったが、今回は衝撃的な裁判を見ている気分になる。

接待を受けたセレブたち

本作は、自分の体験を公表する女性たちの権利という重要なテーマを軸に展開する。だが実録犯罪ものといってもミステリーではなく、中核は権力と影響力を冷徹に検証すること。なかにはショックを受ける人もいるだろう。特に性的虐待の被害者や家族にはつらいかもしれない。

だが細部に注目し、残酷な証言を検証することこそが本作の狙いらしい。ネットフリックスのプレスリリースによれば、「心の傷をさらけ出すことによって、性的虐待の加害者──およびアメリカの司法制度──が次の世代を沈黙させるのを阻止したい。それが性的虐待を乗り越えて被害者団体を結成した女性たちの思いである」。

後半ではエプスタインがカリブ海の孤島で少女たちに売春させていた話が明かされる。

「接待」を受けたとされる有名人には、ビル・クリントン元大統領やドナルド・トランプ大統領、イギリスのアンドルー王子らも含まれている。

女性たちの生々しい証言が脳裏にこびりついて離れない。性的暴行や家庭内暴力(DV)に敏感な人は、見る前によく考えたほうがいい。

【参考記事】極悪ネット性犯罪「n番部屋」は韓国の女性蔑視文化の産物


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