最新記事

環境問題

グレタさんとも意気投合したはず 森林保護に命をかけた環境活動家の映画が受賞

2020年04月03日(金)20時40分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

映画はボルネオ島に住むプナン族たちが出演。中央がマンサー役のスヴェン・シェルカー氏、撮影前にプナン族たちと暮らし、準備したという © Tomas Wüthrich

<アジアの森林破壊に警鐘を鳴らした、スイス人活動家ブルーノ・マンサー。命の危険にさらされながらも、活動を続けた彼の半生を描いた作品が注目を集めている──>

2019年、米誌タイムが「今年の人」に選出したスウェーデンのグレタ・トゥンベリさんは、言わずと知れた有名な環境活動家だ。「日本から招待を受けたら、ぜひ行くようにしたいです」と話すグレタさんは、政界や経済界の著名人たちと会い、各地の若い環境活動家たちとも交流している。グレタさんに、ぜひ会ってほしかった環境活動家がいる。スイス人のブルーノ・マンサー氏だ。2000年に消息を絶ったが、生きていれば、現在65歳だ。 

アジアの熱帯雨林破壊を、世界に知らせた西洋人男性

2020年のスイス映画賞が発表され、3部門でノミネートされていた大作「ブルーノ・マンサー 熱帯雨林の声  Bruno Manser - Die Stimme des Regenwaldes」で、マンサー氏を演じたスヴェン・シェルカー氏が最優秀男優賞に輝いた。本作は、東南アジアの赤道直下、ボルネオ島の熱帯雨林保護に尽力したマンサー氏のストーリー(事実をふまえたフィクション)で、鑑賞すると、相当の予算がかかったであろうことがわかる。制作費は7億円近くで、スイスの映画界では異例だ。

マンサー氏は、90年代、国際レベルで、ボルネオ島の熱帯雨林の危機に気づかせてくれた。日本で関心が高い海洋ブラスチックごみとともに、世界の熱帯雨林破壊も真剣に取り組むべき状況にある。氏の活動から時を経た2017年だけでも、関東1都6県の合計面積の4.9倍にあたる熱帯雨林が世界で失われた。尋常ではない。

熱帯雨林破壊の要因はいくつかある。1つは、安価で使い勝手のよいパーム油生産のためのアブラヤシのプランテーション開発だ。そして先進国が、自国産よりも安い熱帯雨林の木々を輸入して使っている。ダムも建設されている。

映画とリンクして、マンサー氏の活動を見てみよう。

先住民たちと生活し、文化人類学者から人権・環境活動家へ

氏は、小さいころから自然に強い興味をもっていた。大学進学を目指す中高一貫校を卒業後、さまざまな経験を積み、1984年、30歳のときにボルネオ島に渡った。消費社会・資本主義社会ではない、彼にとってのパラダイス求めての旅立ちで、ジャングル内を移動しながら暮らす狩猟採集民プナン族のグループを見つけ、彼らの生活に溶け込んだ(プナン族は計約1万数千人。政府の政策を受け入れ、現在は多くが定住集落で暮らす)。

映画は、氏が、大きい荷物を背負って1人でジャングルへ入っていくシーンから始まる。氏は、プナン族の暮らしを絵と文章で事細かくノートに綴った。膨大な数の写真も撮った。学者という肩書きはなかったが、氏は文化人類学者がするように、フィールドワーク(現地で行う調査)をしていたといえる。映画では、スイスでは味わえない生活に魅了されていた様子が、よく描写されている。

Bruno Manser - die Stimme des Regenwaldes - Szenen - ov - 11 Scene Picture © Tomas Wüthrich.jpg

映画より。マンサー氏はプナン族たちと暮らしてサバイバル術も覚え、ジャングルを熟知した © Tomas Wüthrich

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 3

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 4

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 3

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 4

    【独占】「難しいけれど、スローダウンする」...カナ…

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 1

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 4

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 5

    日本初の「女性首相」は生まれる?...「高く硬いガラ…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:高市早苗研究

特集:高市早苗研究

2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える