最新記事

サイエンス

あの除草剤ラウンドアップに新たな懸念......水中の多様性は知らないうちに喪失

Weedkiller Causing Pollution

2020年03月31日(火)17時15分
ハナ・オズボーン(サイエンス担当)

70年代半ば以降のラウンドアップの使用料は約86億キロに上る YVES HERMANーREUTERS

<「ラウンドアップ」の影響でプランクトンの生物多様性が消失>

除草剤ラウンドアップの新たな悪影響が判明した。3月初め、オンライン学術誌ネイチャー・エコロジー&エボリューションに発表された研究によれば、淡水池中の植物プランクトン群集の生物多様性の約40%が、ラウンドアップによって失われたという。

気候変動を受けて環境条件が極端さを増すなか、食物網を支える植物プランクトンがより脆弱な存在になることを意味しかねない──研究チームはそう懸念している。

グリホサートが主成分のラウンドアップは世界で最も使われている除草剤で、1970年代半ば以降の総使用量は約86億キログラム。遺伝子操作で耐性を持たせた作物ラウンドアップレディーも開発された。

だがグリホサートは、多数の予期しない影響を環境に与える。ミツバチの世界的な減少はこの除草剤の使用と関係があり、ミミズにも悪影響をもたらすとみられている。

農家が畑に散布する除草剤は、淡水源を含む周囲の環境に拡散する。今回の研究では多くの水中食物網の基盤である海洋微細藻類への影響を探るため、植物プランクトン群集を設けた池を複数造り、一部を低濃度のグリホサートにさらした。

その後、全ての池を超高濃度のグリホサートにさらしたところ、既に曝露を受けていた池では耐性が確認され、致死量でもプランクトンは生き残ることができた。

ただし、生物多様性は40%前後消失した。「こうした多様性喪失が気付かないうちに起こる可能性は非常に大きい」。研究チームの1人で、マギル大学(カナダ)の生物学教授であるアンドルー・ゴンサレスは本誌にそう語る。

「植物プランクトンの多様性の消失は、淡水池や淡水湖における食物連鎖の生産性や安定性に影響を及ぼしかねない。ラウンドアップレディーへの依存が原因で、グリホサートの使用量は世界的に増えている。今回の研究結果は、グリホサートに新たな健康上や生態毒性上の深刻な懸念が1つ加わったと捉えるべきだ」


cover200407-02.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。

[2020年3月31日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「高慢な態度に失望」...エリザベス女王とヘンリー王…

  • 2

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 3

    メーガン妃はイギリスで、キャサリン妃との関係修復…

  • 4

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 5

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    「高慢な態度に失望」...エリザベス女王とヘンリー王…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 5

    日本初の「女性首相」は生まれる?...「高く硬いガラ…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:世界が尊敬する日本の小説36

特集:世界が尊敬する日本の小説36

2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは