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「女子は理数系が苦手」という神話が崩れる日

The Myths About Women in STEM

2020年03月25日(水)19時15分
メレディス・レイチェス、サラ・リチャードソン(共にジェンダーサイ・ラボのメンバー)

「男女格差は生まれつき」との根強い偏見をはね返し、科学、技術、工学、数学で活躍する女性が増えている SolStock-iStock

<男女不平等の国ほどリケジョが多い? 常識破りの「新説」から浮かび上がるジェンダーをめぐる不都合な真実>

2018年、意外な研究結果がサイコロジカル・サイエンス誌に発表された。ノルウェーやフィンランドなどの男女平等の国よりも、アルジェリアやアラブ首長国連邦など男女格差の大きい国のほうが、STEM(科学・技術・工学・数学)の学位を取る女性の割合が高いという。

論文の筆者である英エセックス大学のハイスバート・ストゥー教授と米ミズーリ大学デービッド・ギアリー教授は、これをSTEMにおける「男女平等のパラドックス」と呼んだ。つまり、平等な社会になるほど女性はSTEMを選ばなくなるということになる。

これは大きな賭けだ。職業選択の傾向に生まれながらの男女差があるのなら、STEM分野により多くの女性を進出させようとの試みは見当違いで失敗する可能性が高い。

だが、私たちハーバード大学のジェンダーサイ・ラボ(科学者とジェンダー学者の学際的グループ)がこの研究結果の検証を行ったところ、データに大きな違いが出た。例えばポーランドではSTEM専攻の学生のうち女性は43.63%で、45カ国中5位。だがストゥーとギアリーの報告では 26・9%で20位だった。

私たちはこの検証結果をサイコロジカル誌に送付。同誌の調査の結果、ストゥーらが独自の尺度(非公開)を使っていたことが明らかになった。例えばアルジェリアでは、男性のほうがSTEM学位取得者の割合が高いとのデータを使いながら、STEMの学位取得者の53%が女性と結論付けていた。

サイコロジカル誌は結局、ストゥーらに論文の大幅な修正を要求。ストゥーらは修正版でも、STEMに男女格差が存在するとの主張は変えなかった。だが、独自の曖昧な尺度によってそう結論付けたことを認めた。その尺度とは、STEMで修士号以上の高い学位を取得しようとする男女別の「傾向」だ。

今年2月11日付の同誌は、「STEMにおける男女平等のパラドックス」の概念的・実証的問題点を指摘した私たちの査読付き論文を掲載した。男女平等の進んだ国ほど女性のSTEMの成績が低い「負の相関」は男女平等と成績の尺度が変われば変化する、と私たちは主張している。

「傾向」を重視する風潮は、男女のSTEMの成績に社会的・生物学的要因がどう影響するかという議論全体に見られるようだ。

20年前にギアリーら複数の研究者は、女性は生まれつきSTEMの能力が劣っていると主張した。だが今では科学・医学の多くの分野で女性の数が男性の数を上回り、多くの共通テストで男性より好成績を収め、世界中であらゆる種類の上級学位を男性より 多く取得している。すると今度は彼らは、女性は生まれつき男性に比べてSTEMが好きではない、もしくは関心や興味がないという説を主張するようになった。

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