最新記事

サイエンス

最も不安に駆られるのは大卒者 脳が不安に支配されるのはなぜ?

THE ANXIOUS BRAIN

2020年01月09日(木)18時05分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

wildpixel-iStock

<将来への漠然とした心細さはどこから生まれるのか。「心配性の脳」の秘密を探る研究の最前線をのぞいてみた>

現代が不安の時代だと言うなら、中世はどうだったか考えてみてほしい──不安の神経科学の権威で、2015年に不安の脳科学的メカニズムを論じた著書『不安(Anxious)』を上梓したニューヨーク大学教授のジョセフ・ルドゥーはそう言う。「うんと生きづらい時代だっただろう。疫病、貧困、そして生活上のストレス」

ルドゥーは著書でも述べている。人間はいつの時代にも「今は不安の時代だ」と考えるものだ、と。

「人間は自分の不安に執着する。自分のものだから、特別なものだと思うのだ」と、ルドゥーは説明した。「それが不安の本質だ。不安にとらわれると、それだけで頭がいっぱいになる。そうなると、ほかの人たちも不安を抱いていると気付く余裕もなくなる」

私は「なるほど」とうなずきはしたが、完全には納得できなかった。

その日、彼の研究室に早めに到着した私は彼が現れるのを待つ間、スマートフォンをいじっていた。画面にはニュースが次々に現れた。「地球の肺」と呼ばれるアマゾンの森林で火災が広がり、地球温暖化に拍車が掛かりそうだ、米中貿易戦争はエスカレートの一途、ダウ平均が大幅に下落、テキサス州でまたも銃乱射事件......。

こうしたニュースがわが子と地球の将来、そして自分の401k(確定拠出型年金)に及ぼす影響を考えていると、ニューズウィークの編集者からテキストメッセージが来た。不安についての今回の記事を早めに仕上げてもらえないか、3日後ではどうか、と。

今を「不安の時代」と呼ばずして、何と呼べばいい?

ただルドゥーの言うとおり、将来に不安を抱いているのは私だけではない(私だけだと思いがちだが)。実際、米国精神医学会が 年5月に発表した調査結果によれば、「非常に」と「やや」を合わせると、アメリカ人の3人に2人が自分の健康と金銭面、自分と家族の安全に不安を抱いている。ちなみに、この割合は前年と同じだ。

この傾向は若い成人に顕著で、18〜34歳の70%が金銭面と家族の安全に、3人に2人(55歳以上では40%)がパートナーや恋人との関係に不安を感じ、約20%がクリニックなどを訪れている。

「無意識」が不安に果たす役割

複数の報告を見ると、大卒者は最も不安に駆られている。

米国心理学会の18年秋の報告では、1997年以降生まれのZ世代はどの世代より心の健康状態が悪く、91%が鬱や不安など、ストレスに関連した身体的・心理的症状を経験してた。別の調査では、過去1年間に「圧倒的な不安」に苦しんだ大学生の割合は63%。大学のカウンセリングセンターを訪れる学生の数も2009〜15年に30%以上増えている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    脳裏にこびりつく生々しい証言 少女を食い物にした…

  • 3

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    日本初の「女性首相」は生まれる?...「高く硬いガラ…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「指を入れるのが好きじゃない」...フランス発ベスト…

  • 3

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 4

    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…

  • 5

    「ハイヒールを履いた独裁者」メーガン妃による新た…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 3

    加工した自撮り写真のように整形したい......インス…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    「指を入れるのが好きじゃない」...フランス発ベスト…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:AIの6原則

特集:AIの6原則

2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?