最新記事

研究

「100年後には肉食は廃れているかもしれない」それでも、肉はおいしい...

Did Meat Make Us Human?

2019年12月09日(月)16時45分
レベッカ・オニオン

肉食がもたらした弊害

肉をあまり食べない人は、食べたいけれど経済的余裕がないだけ、という通説は誤りかもしれないと、バーソンは主張する。恐らく、国が豊かになれば肉牛の需要が増えるという刷り込みが、新興市場向けの牛の増産につながるのであって、その逆は成り立たない。近現代になって植民地化された国で家畜の肉の消費量が増えたのは、手に入るのがそれらの肉だったからだ。

例えば、オーストラリアでは畜牛の登場で先住民の生活が悪化したという主張には説得力がある。ヨーロッパからの入植者が生産する牛肉を「食べられるようになった」先住民の生活の質は悪化した。

オーストラリア北部の先住民ヨルングの食生活に関する1948年のアメリカとオーストラリアの共同研究からは、植民地政府から配給される牛肉や小麦粉に頼らず、週に数時間の食料採集だけで必要な栄養を賄えたことが分かるという。一方、配給生活者は「ニワトリ、ヤギ、牛、トラック、火器」を手にしたが、暮らしは厳しかった。配給生活では、野営地を移るというわけにもいかない。むしろかつてのように土地を利用できるほうがいい。バーソンによれば、牛肉を食べる暮らしは「不安定」だ。

それでも結局、本書のメッセージは希望に満ちている。「人間は肉なしでは生きられないという主張は生物学と宿命の関係を逆に捉えている」とバーソンは指摘する。この主張はなかなか受け入れられないだろう、とも彼は語る。「肉食が私たちを人間にした」という通説とは違い、彼のは「明確な答えを求める人間の欲求に訴え掛けない」からだ。肉食は人間にとって最高の食事という考えも根強く、アメリカだけで年間3500万頭の牛が殺されている。

「2119年にはひょっとすると動物の肉を食べる習慣は廃れているかもしれない」とバーソンは言う。昔のように肉を食べたくても食べられなくなる日が、いずれ来ないとも限らない。

これは決して文明の挫折ではない。なるほど、ネアンデルタール人のハンターたちが大型獣を倒し、獲物を持ち帰って女たちの称賛を浴びる様子を想像すると胸が躍る。しかし、人類の祖先が来る日も来る日も地道にドングリを砕き、コケを集め、トカゲを追い掛けていた姿を想像するのも、ワクワクするではないか。

©2019 The Slate Group

20191217issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月17日号(12月10日発売)は「進撃のYahoo!」特集。ニュース産業の破壊者か救世主か――。メディアから記事を集めて配信し、無料のニュース帝国をつくり上げた「巨人」Yahoo!の功罪を問う。[PLUS]米メディア業界で今起きていること。

[2019年12月 3日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

印政府、スマホへの国営アプリ搭載命令を撤回 個人情

ワールド

トランプ氏、エヌビディアCEOと面会 輸出規制巡り

ビジネス

マイクロソフト、AI製品の売上成長目標引き下げとの

ワールド

モゲリーニ元EU外相、詐欺・汚職の容疑で欧州検察庁
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    自殺に失敗し顔を失った少女の願い――「何が起きても…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

  • 1

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 1

    加工した自撮り写真のように整形したい......インス…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 4

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 5

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:日本時代劇の挑戦

特集:日本時代劇の挑戦

2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志