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優しかった母が見せた「女の顔」 哀しみと共に育った少年の物語

From Fluffy to Fiery

2019年07月08日(月)18時00分
インクー・カン

揺らめく炎のようにさまざまな表情を見せるジャネットを、マリガンは見事に演じている。だが、映画の比重が彼女に傾き過ぎて、父と息子だけが登場するシーンは精彩を欠く。なすすべもなく黙って耐えるジョーの気持ちは、オクセンボールドの演技から痛いほど伝わってくるが、それでもノーの声すら上げない彼には歯がゆさを覚える。

映画の結末は納得できるし、満足のゆくものだ。ただ、ジャネットの心の傷があまりに深いだけに、それがきれいに縫い合わされてしまうオチには少し物足りなさも感じる。救いは町を見下ろす山々の安らぎに満ちた壮麗さが、ジャネットの激しさと対置されることだ。

かっちりした絵画的なダノの構図はやがて、ジャネットの変貌とジョーの動揺を描いた場面に取って代わられる。母に引かれつつも反発するジョーは、決して母から目をそらすことができない。観客も同じだ。


WILDLIFE『ワイルドライフ』
監督/ポール・ダノ 主演/エド・オクセンボールド キャリー・マリガン ジェイク・ギレンホール。日本公開は7月5日。


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※7月16日号(7月9日発売)は、誰も知らない場所でひと味違う旅を楽しみたい――。そんなあなたに贈る「とっておきの世界旅50選」特集。知られざるイタリアの名所から、エコで豪華なホテル、冒険の秘境旅、沈船ダイビング、NY書店めぐり、ゾウを愛でるツアー、おいしい市場マップまで。「外国人の東京パーフェクトガイド」も収録。

[2019年7月 9日号掲載]

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