将来の夢はプロ野球選手──普通の少年は肌が白くないだけでレイプ犯に仕立て上げられた
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事件当時16歳で、5人のうちただ1人、成人として裁かれたコーリー・ワイズの名前は当初、容疑者リストにはなかった。だが彼は、仲のよいユセフ・サラ ームが出頭するのに付き合って警察に行った。この親切心があだとなり、彼は判決までの数年を拘置所で、13年を刑務所で過ごすことになる。
第1話では主に、少年たちが自白に追い込まれるまでの警察の尋問が描かれる。尋問は24時間以上ぶっ続けで行われ、食事が与えられないこともあったし親との面会が許されないこともあった。そしてどの少年も、警察から強い圧力をかけられた。指示どおりに自白をすれば家に帰してやると言われ続けたのだ。
自白と言っても内容はバラバラで、事件の現場や時間が実際と食い違っているものもあった。だが警察やニューヨーク市、そして多くの人々には「少年グループ犯行説」を信じたいという気持ちがあった。だから彼らの自白が嘘だらけでもコロコロ変わっても、自白だけで十分な犯罪の証拠とされた。
真犯人が名乗り出るまで
第2話では裁判に焦点が当てられる。また第3話では、少年として有罪判決を受け、服役した4人の様子が描かれる。出所後、彼らを待ち構えていたのは非常に厳しい人生だった。それは本人たちだけでなく家族にとってもそうだった。
最終話(第4話)の中心になるのはコーリーだ。彼の刑務所での体験は本当に見ていてつらい。有名な性犯罪事件で有罪判決を受けたということで、コーリーは最初から他の受刑者たちから標的にされた。何度助けを乞うても、誰も手を差し伸べてはくれなかった。他の受刑者たちと一緒だと殺されかねなかったため、何年もの間、独房で過ごした。あちこちの刑務所を移動させられたが、母の近くに行きたいとの願いはいつも裏切られた。
物語の終盤では、冤罪が晴らされる過程が駆け足で描かれる。メディアや弁護士や警察がさらなる調査を行ったわけではない。刑務所でコーリーと出会った真犯人が、やったのは自分だと名乗り出たのだ。
この男はセントラルパークの事件後間もなく、別の事件で逮捕されていた。本件の現場に残された物証と DNAも一致したが、当局は取り合おうとはしなかった。恐ろしい罪を犯した強姦魔のほうが、この時点では司法に携わる人々より本質的な正義感を持っていたわけで、皮肉な話だ。
デュバネイの切り口はある意味、驚くくらいシンプルだ。例えばO・J・シンプソン事件を扱った作品には、ロサンゼルスの長い人種差別の歴史についての解説を伴うものが少なくない。だがデュバネイは、冤罪の背景となった当時の社会文化的状況やニューヨーク市の歴史には踏み込もうとしない。
つまり本件に関わった白人の多くがあれほど残酷で邪悪になってしまった理由について、突っ込んだ描写は見られない。だがそのおかげでかえって、この街が、当局者たちが、そして市民たちが愚かで醜悪になってしまった元凶は、まさに人種差別だったということが力強く伝わってくる。
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[2019年6月25日号掲載]