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日本の女性を息苦しさから救った米国人料理家、日本で寿司に死す

2019年06月12日(水)11時35分
村井理子

前作『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』の刊行後、念願の来日を果たし、テレビ番組への出演やファンイベントへの登壇を精力的にこなした彼女は、日本を第二の故郷と呼び、日本食を、そして日本文化を心から愛し、敬っている。

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写真:吉田貴洋(コルプ)

誰しも心のなかに「自分の苦手」を抱えている

そんなキャスリーンが、再来日を果たしたのが2018年の秋である。取材のための滞在だった。今までは教える側として料理を苦手とする人たちを助けてきた彼女が、今度は教えられる側として、苦手だった魚料理に挑戦した。自分の生徒たちのように、自らの弱みをさらけ出した。

東京すしアカデミーではプロの寿司職人に魚調理の基本を、閉場迫る築地では魚文化を熟知する元競り人に魚の見分け方や日本の漁業が抱える課題を、そして読者のキッチンでは日本人と魚との深い関係性を学び、そのすべてをアメリカに持ち帰った。

魚と日本文化をプロから直接学ぶという刺激的で濃密な日々を過ごすなかで感じたこと、読者との心温まる交流の様子、日本への強い思いが、新刊『サカナ・レッスン』には詳しく記載されている。

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写真:吉田貴洋(コルプ)


わたしがみなさんに言いたいこと。それは恐れないでということ。間違ったってだれも怒らない。(中略)わたしだって寿司マスターには絶対なれないけれど、これからシアトルでたくさん寿司を握ろうと思っているんだから。

笑い、そして時に泣きながら、キャスリーンが「自分の苦手」と向き合おうとする姿には、学ぶところが多くあるはずだ。魚に限らない。誰しも心のなかに「自分の苦手」を抱えているはずだからである。


わたしはフランスを愛している。でも、日本ほどわたしに食との関係を改めて問いただした国はこの世界にはない。

人生とは、思わぬ場所に連れて行ってくれる川のようだと語るキャスリーン。想像もしなかった新しい出会いと冒険が導いた先に、第二の故郷である日本を見つけた彼女が、どのようにして私たちの文化を理解し、そして咀嚼して、次に新しい世界を見いだすのか。

今まで多くの生徒の心を解きほぐしてきたキャスリーン・フリンが見た東京の風景や日本人の心は、混沌とした現代に生きる私たちにも、多くのヒントを与えてくれるはずだ。

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『サカナ・レッスン 美味しい日本で寿司に死す』
 キャスリーン・フリン 著
 村井理子 訳
 CCCメディアハウス

【イベント情報】
キャスリーン・フリン×村井理子:みんなで人生や料理の話をしよう! /『サカナ・レッスン 美味しい日本で寿司に死す』出版記念
■7/1(月)株式会社CCCメディアハウス(東京・目黒)

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