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有名画家の伝説に疑問? ナチスへの傾倒が明るみに出て、メルケル首相もエミール・ノルデ作品を排除

2019年05月10日(金)17時45分
河内秀子(ドイツ在住ライター)

ノルデがナチスに傾倒していたと思われる時期のバイキングがモチーフのとした水彩画「女主人とよそ者」1938年 © Nolde Stiftung Seebüll, Foto: Dirk Dunkelberg, Berlin

<ベルリンでドイツの画家、エミール・ノルデの大規模な展覧会が開催されている。ナチスに迫害されたと芸術家として知られてきたノルデだが、この展覧会では最近の研究からわかったナチスへの深い傾倒の事実に焦点を当てており、反響を呼んでいる>

4月12日から、ドイツ表現主義を代表する画家エミール・ノルデの展覧会が、ベルリンの現代美術館ハンブルガー・バーンホフで始まった。開幕の直前、アンゲラ・メルケル首相は、自分のオフィスに飾っていたエミール・ノルデの「くだけ波」「花の庭」の2作品を取り外したと、ドイツの国際公共放送ドイチェ・ヴェレ独ターゲスシュピーゲル紙など数々の媒体で大きく報道された。メルケル首相を動かしたのは何だったのか。

最近の研究からノルデのナチスへの傾倒が明かに

初公開作品を含む100点以上が展示される今回のエミール・ノルデ展覧会には、「ドイツの伝説、ナチズムの中の芸術家」という副題が付けられている。

ノルデがナチ党員であったことはこれまでも知られていたが、1937年に始まったナチスの近代芸術迫害のための『退廃芸術展』で、ノルデの作品は最も多い1052点が選ばれ、その後1941年にはノルデは帝国造形芸術院から除名され、作家活動を禁止された。そうした背景がアピールされていたため、ノルデといえば「ナチスに迫害された画家」というイメージが強かったのだ。

しかし2013年、ノルデ財団に新ディレクターが就任し、それまで許されていなかった関連資料の研究者による閲覧が可能となり、当時の関係者の日記や手紙、アトリエの様子を示す資料などが詳しく研究、分析された。その結果、ノルデのナチスへの深い傾倒や反ユダヤ的な発言などが明らかになった。この展覧会でそうした研究結果が公開されることとなり、国内外のメディアで反響を巻き起こすこととなったのだ。

1949年から初代の西ドイツ大統領を務めたテオドール・ホイスや、1974年から西ドイツの首相を務めたヘルムート・シュミットのお気に入りの画家として、戦後の歴代首相のオフィスに飾られ続けたノルデの作品。退廃芸術作家というレッテルが、戦後は反ナチスの証となったのだ。ノルデをモデルとしたナチス政権下で苦しむ退廃芸術作家が登場するジークフリート・レンツの小説『国語の時間』は、1968年の出版以来、いまも読み継がれる大ベストセラーだ。

展覧会の最後には、こういった背景の説明とともに、メルケル首相から返却された「くだけ波」が展示されている。

犠牲者どころか、その時代に成功者となったノルデ

今回のキュレーターの一人であるアヤ・ゾイカさんは言う。「実はノルデの芸術家としての成功は、ナチ時代に始まったのです」

ヒトラーは、ノルデを代表とするドイツ表現主義の作品を毛嫌いしていたが、それを懐柔するための様々な試みが行われていたという。

例えば、1933年のこと。ミュンヘンにノルデの3枚の絵が送られた。ヒトラーと仲が良かったミュンヘンのエルンスト・ハンフシュテングルという人物がノルデの妻と知り合いであり、ハンフシュテングはヒトラーを招いての昼食会の席にノルデの絵をさりげなく飾っておき、ヒトラーからのノルデの好感度をアップしようと仕組んだのだ。この際ヒトラーはノルデの作品を真っ向から批判せず、「もっとよく見てみよう」とコメントし、皆が大喜びしたということがわかっている。

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ハンフシュテングルがヒトラーを招待したランチの時に飾られたという作品のひとつ「ひまわり」1932年 
© Nolde Stiftung Seebüll

【参考記事】ピカソ、クレーの名画の「裏側」を見る展覧会でナチス略奪の軌跡を知る

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