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夫婦でも、無条件の献身はありえない──人気の海外ドラマが描くエリート夫婦の「共闘関係」とは?

2018年11月07日(水)17時30分
小堀栄之(経済ライター)

トップに立った瞬間「追われる側」になる

一方で、視聴者がシーズン3以降に多少の不満を抱くとすれば、フランシスのトリックスターとしての魅力がやや薄れることが一因かもしれない。主人公が、大統領や首席補佐官を中心とする「秩序」と対決することで進んできた物語は、自らが大統領になったことで、大きな方向転換に迫られる。フランシスが秩序を作る側、つまり挑戦される側に回ったのだ。

シーズン1~2と異なり、権力の階段を上り詰めたが故の息苦しさも感じさせる。

上司がいなくなったからか、フランシスは以前に増して尊大な態度が目立つようになる。側近の首席補佐官レミー・ダントンは不満を露わにすることが増え、一時は忠誠を誓っていた報道官のセス・グレイソンや女性議員ジャッキー・シャープの動向も、次第に微妙になっていく。

もみ消したはずの「過去」がメディアから追及されるようになる。国内外の問題に加え、大統領選に向けた党内の指名獲得で手強いライバルも現れる。

まさに内憂外患。フランシスはトリックスターとして秩序を攪乱するよりも、揺さぶりをかけられるシーンが増えていく。ただでさえ守勢に回ることが多くなったフランシスを追い詰めるのは、最大の味方とも言える妻のクレアとの関係が悪化していくことだった。

夫婦でも無条件の献身はNG。夫と妻のあり方

ハウス・オブ・カードの世界の中核をなすもの、それはフランシスとクレアの夫婦関係だ。ドラマが、米国政治の「不気味さ」と「きらびやかさ」を描いたドラマだとすれば、前者の主役はフランシスで、後者の主役はクレアと言える。フランシスとハーバード・ロースクールで出会ったクレアは、若くして結婚する。貧しい家庭で育った夫と異なり、テキサスの裕福な家庭で育ち、エレガントそのもの。ドラマでのファッションは、日本の女性誌でも取り上げられていた。

中肉中背でふてぶてしいイメージの夫よりも、大衆の注目と尊敬を集めるのは頭が切れ弁舌も鋭い妻であることが多い。ドラマの開始当初は、環境保護のNPOの代表として政策の立案に携わっている。

2人の夫婦関係は、日本のドラマでよく見かける「優しく温かい」ものとは対極にある。感情的なつながりはあるものの、ふたりを強く結びつけているのは権力に対する野心。子どもを作ることを拒否して、権力を奪取することを目指す共闘関係が、この夫婦の核になっている。

そこでは一方に対する無条件の献身はありえず、必ず対価が伴う。クレアの支援に対してフランシスが十分な「見返り」を与えなかったことから、手痛いしっぺ返しを食らう羽目になるシーンがたびたびある。

反対に、野望の実現に資するのであれば、大抵のことは夫婦の間で正当化される。フランシスが女性の新聞記者をコントロールするという名目で不倫関係になっても、「仕事」のためであればとクレアは(少なくとも表向きは)意に介さない。

夫が昇進を逃した時には「見通しが甘い」と厳しく叱咤し、逆に昇進を果たしたときには満面の笑顔で「あなたを誇りに思う」と優しく抱擁する。美貌の中に強烈な毒気を内包するキャラクターだ。突き抜けた個性を持つ夫婦が、サポートし合い、時に対立しながら物語を引っ張っていくのが、ハウス・オブ・カードというドラマだ。

【第3弾】『ハウス・オブ・カード』が単なる政治劇でなく、「何かを成し遂げる」魅力的な仕事人たちのドラマである理由

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