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いじめは減ったのか? 男女の区別をなくすイギリスの学校の取り組み、その実情とは

2018年09月20日(木)12時00分
冨久岡ナヲ(イギリス在住ジャーナリスト)

スカート廃止という学校も出てきた(写真はイメージです) monkeybusinessimages-iStock

<トイレや制服のジェンダーニュートラル化が進んでいるイギリスの学校。だが疑問や困惑の声も>

イギリスは多民族な国家だ。ダイバーシティーといえば今まで、肌の色や民族、宗教などを指すことが多かったが、この数年に性的少数者(LGBT、LGBT+、LGBTQと称されることが多い)も含むようになってきた。ジェンダーニュートラルなトイレの登場はそんな背景を反映している。

一昨年には、教育監査局OFSTEDの局長が学校のトイレもこうした時代の変化に対応していかなくては、とコメント。政府が教育の現場での性的少数者の差別解消を奨励するようになって以来、あちこちの学校がトイレのジェンダーニュートラル化に踏み出した。

さらに、変革はトイレにとどまらない。制服にも男女の区別をなくそうと、スカートを廃止したり男子生徒もスカートを履いてよいことにするという学校が現れた

イギリスでは私立公立に関わらず、制服のあるなしや服装コードは学校ごとに決めることができる。この2年間の間に全国で小中高合わせて 120校以上がジェンダーニュートラルな制服に移行、そのうち40のセカンダリー校(11歳から18歳まで)はスカートを廃止した。英インディペンデント紙によると、ロンドンの名門女子校では今年から、生徒がズボンを履いたり男性の名前に変更することを認めたそうだ。

このように思い切った取り組みは、性的少数者を含むマイノリティーの立場向上を目指す人々や活動団体から、ダイバーシティー受容を推進する動きとして高い評価を得ている。もはやこの国が1967年まで、ホモセクシュアリティを無期懲役もあり得る重大な犯罪行為としていた事実などすっかり忘れ去られたかのようだ。同性同士の婚姻も法的に認められているし(北アイルランド以外)、都会の学校でなら、クラスにひとりかふたりは両親ともに同性という家庭の子供がいる。

共用トイレ、スカート廃止への子供たちの反応は......

しかし、子供達はどう反応しているのだろうか。女子生徒からの共用トイレへの評判はいまひとつだ。「男子生徒がいる中で用を足すのはイヤ」「生理中だと知られたくない」などの理由で学校のトイレを使うのを避ける女子が増えた。男子のほうも同様で、小便器を使っているところを女子に見られたくないからと同性の友人を見張りに立てる生徒も。

当然、保護者たちからのクレームが届き、全部のトイレを共用することをやめ一部のみにと変えた学校もあると英デイリーメール紙は伝えている。また、自然に1階のトイレは男子、2階のトイレは女子ばかりが使うなど暗黙の慣習ができたところも多い。

それに、恩恵を受けるはずのトランスジェンダー生徒(体と心の性別が一致しない)や、どちらの性別にも固定しないジェンダーフルイド生徒たちは依然としていじめを恐れている。トイレが共用になったのはお前のせいだ、と言われたりするからだ。これは政府や教育機関の「いじめが減る」という目論見とは逆の結果になっている。

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