最新記事

中間選挙

度しがたい共和党の妄想

選挙での勝利は確実かもしれないが、金持ち減税と赤字削減を誓う「アメリカへの誓約」はあまりにお粗末

2010年10月28日(木)14時59分
ベン・アドラー、デービッド・グレアム

絵空事ばかり 「誓約」を手に記者会見するベーナーと共和党幹部(9月23日) Larry Downing-Reuters

 94年の中間選挙では、共和党の掲げた公約「アメリカとの契約」が同党の歴史的勝利に大きく貢献したと言われている。だが現実はもう少し複雑だ。民主党の牙城だった南部の票が94年に大挙して共和党へ流れた原因はいくつもある。そもそも中間選挙で政権政党が議席を減らすのは米政界の常識だ。

 当時の共和党は「契約」など書かずとも楽勝ペースだったし、もちろん契約の中身のほとんどは実現しなかった。アメリカでは権限が分散されていて、野党が上院で総議席数の5分の3(60議席)の安定多数を占め、事実上どんな法案を通すことができる場合でも、別な政党に属する大統領が拒否権を発動できるからだ。

 だが政治の世界では、具体的な政策目標の達成と政治的な成功は直接には結び付かない。そういう意味では、94年の「契約」は立派に成功だったと言える。

 ではアメリカの有権者は、9月23日に発表された共和党の「アメリカへの誓約」をどう考えるべきだろうか? かつての「契約」は、増税案の採択には5分の3の多数を必要とするなどの手続き的な内容がほとんどだったが、「誓約」の内容はもっと具体的だ。

 中には、グアンタナモのテロ容疑者収容施設を維持すべきだといった、やけに具体的で意図不明な項目もある。グアンタナモについては、既に外国人テロ容疑者の収容場所として不適当ということで超党派的な合意ができている。一度も有罪を宣告されていない容疑者を永遠に拘束し続けることなど、共和党員も本気で願ってはいないだろう。ましてや無党派系の有権者は望まない。

 政府への監視を強めるための立法手続きに関する提案が後に続く。例えば、政治ニュースサイト「ポリティコ」が指摘するように「議員なら誰でも歳出削減法案に対する修正を求めることができる」との項目は「およそ実現しそうもないスタンドプレー」であり、まあ大した害はない。

 だが、法案を議会で通す際に、それが合憲である具体的根拠の提出を求めるというのは穏やかではない。アメリカには法案の合憲性を判断する独立した司法という仕組みがある。それに輪を掛けて立法府の権限を制約しようというのは憲法違反であり、単なる提案としても危険過ぎ、司法権の侵害にも当たる。

 そして最大の疑問は、向こう10年間で4兆ドルの資金を連邦政府から取り戻すという部分だ。今年末に期限が切れる「ブッシュ減税」を恒久化した上で、小規模企業への減税も行い、それでいて財政赤字を減らし、一方で国家ミサイル防衛の予算は増やすというが、どうすればそんな芸当が可能なのか。

 それには裁量支出の制限などといった生易しいものではなく、もっと具体的かつ大胆な予算削減が必要だろう。共和党のシナリオでは、「初年度だけで1000億ドル」の削減が可能と言うが、そんな程度ではパンクしそうなほど肥大した他分野への支出を捻出することはできない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中