最新記事

アメリカ政治

チェイニー長女はペイリンを超えるか

テロ容疑者の弁護士バッシングで強引な手腕を見せ付けたリズ・チェイニーは、新たな政治王朝を築くかもしれない

2010年3月15日(月)17時49分
マイケル・イジコフ、マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

サラブレッド リズ・チェイニーは「血統書付きペイリン」? 
Ali Jarekji-Reuters

 ラスベガスのド派手ホテル、パラッツォで3月初めに開かれた共和党ユダヤ連合の年次総会で、最も聴衆を湧かせたのは、これまで選挙に出たこともない小柄な元国務省中堅職員だった。

 彼女は共和党前副大統領ディック・チェイニーの長女エリザベス(通称リズ)。バラク・オバマ大統領の外交政策を熱っぽく攻撃し、会場総立ちで喝采を浴びた。ロースクール出の外交政策通、そして5人の子の母でもあるリズが、アメリカの次世代の政治王朝を築くことになるかもしれない。

 その4日前にリズは共和党指導部があ然とする事をやっているのだが、ラスベガスの聴衆は気にも留めなかったようだ。

 リズが保守派の論客ビル・クリストルと共に主宰する保守系の安全保障政策の情報サイト「キープ・アメリカ・セーフ」は、グアンタナモ基地に収容されたテロ容疑者の弁護士7人を槍玉に挙げ、たちの悪い攻撃を始めた。7人を「アルカイダ・セブン」と呼び、悪意に満ちた言い回しで「誰と価値観を共有しているのか」と問いかけた。

 時に不人気な(そして有罪の)被告の権利を守る弁護士の職務に対する攻撃----共和党の内外でリズを批判する人たちは「マッカーシズム(赤狩り)」の匂いを嗅ぎ取っている。

 この父にしてこの娘あり、のように見える。父ディックはジョージ・W・ブッシュ政権の「極右」として立場を鮮明に打ち出し、全国的にはそれほど人気がなかったにも関わらず共和党タカ派から尊敬と感謝を一身に集めた。リズも同様に党内の穏健派を挑発することで評判を高めようとしているようだ。

 リズの側近はラスベガスでの喝采に喜びを抑えきれない。「1000ドルの宣伝で1週間話題を独占した」と、政治顧問の1人は匿名で語っている(彼女自身は取材に応じていない)。

父親の威を借りる傲慢さ

 43歳のリズは謙虚で控えめな人柄に見える。しかしこの10年間、彼女は共和党指導部を困惑させて続けてきた。06年に出産のために国務省を退職した後、大統領選でフレッド・トンプソン元上院議員の陣営に参加し、テレビのトークショーにこわもての政治論客として登場した。

 リズの妥協を知らない政治姿勢はそれ以前のブッシュ政権下の国務省時代にも顕著だった。02年から2年間コリン・パウエル国務長官の中近東問題担当副次官補だったときには、政権の政策に忠実に従いつつも、テロには容赦しない父親の主張を押し通すことで知られていた。

「本当にやりづらかった。皆、彼女の前では口をつぐんでいた」と、元職員の1人は語る。「すべてが副大統領に筒抜けになると思ったら、まともな会議はできない」

 リズ自身も出自は隠さなかった。「傲慢に振る舞っていた」と、ブッシュ政権やチェイニーに批判的なパウエルの首席補佐官だったローレンス・ウィルカーソンは言う。「父親の威光を理解していた」

「知的なペイリン」の破壊力

 リズはブッシュ政権2期目で首席国務副次官補に昇進したが、シリアとイランの政権転覆のために政府予算を割くようごり押しして穏健派の政権メンバーを困惑させた。匿名で語った元同僚の話によると、ブッシュ政権が外交的アプローチに傾いていた時期には、父親の手先のように動いていた。

 ディックは昨年、保守系のFOXニュースに「リズにはいずれ立候補して欲しい」と語った。彼は娘がそう望んでいると信じている。彼女自身は政治活動への意欲をはっきり示していないが、「アルカイダ・セブン」攻撃の衝撃度が彼女の野望と実力を測る物差しだとすれば、出馬はそう遠くないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、北朝鮮外相と会談 関係強化を協議=KC

ワールド

カナダ首相、米との貿易協議再開に前向き トランプ氏

ビジネス

米クアルコム、AI半導体に参入 サウジから大型受注

ビジネス

再送-円金利資産は機動的に購入や入れ替え、償還多く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中