最新記事

追悼マイケル・ジャクソン

神になったマイケル・ジャクソン

「キング・オブ・ポップ」の突然の死。ジャクソン・ファイブの「ちびっ子」時代から『スリラー』の大ヒットへ――顔や肌の色が変わっても変わらなかったものがある

2009年6月26日(金)16時56分
ジョシュア・オルストン(エンターテインメント担当)

ポップの王様 タブロイド紙の餌食になっても、絶頂期の記憶が消えることはない(93年、アルバム『デンジャラス』 ツアーのサンパウロ公演) Reuters

 ポップミュージックの大スターからタブロイド紙の餌食へと、不幸な転身を遂げたマイケル・ジャクソン。とりわけメディアは絶え間なく変わる風貌と劇的に明るくなった肌の色、そして変化した顔の造りに何度も噛み付いてきた。

 7月13日からロンドンのO2アリーナで開催される計50回の公演で、マイケルはカムバックするはずだった。だがそれより悲劇的なのは、人々が彼について思い出すのがその変化し続けた顔ということだ。本当に記憶されるべきなのは、マイケルがポップミュージックの「顔」をいかに変えたかということだろう。

 マイケルは兄弟バンドであるジャクソン・ファイブのちびっ子メンバーとして売り出し、写真映えするかわいらしさとあの声のおかげでたちまちグループの中心になった。少年時代のマイケルが卓越していたのは、子供らしい無垢さとおませな賢さを時には同時に表現できた点にあった。

 10歳にならない1人の子供が「帰ってほしいの」や「小さな経験」で愛とその喪失について鋭く歌い上げ、同時に「ABC」や「ロッキン・ロビン」のようなかわいらしいシンプルな歌を披露するのは並大抵のことではない。マイケルのおかげでグループの4曲がシングルチャート1位に輝いた。

 だがマイケルの分岐点は未熟な10代が終わったときにやって来た。彼は20歳で映画『ウィズ』に主演し、そこで大物音楽プロデューサーのクインシー・ジョーンズに出会う。5枚目のソロアルバム『オフ・ザ・ウォール』を手掛けることを約束され、アルバムはディスコ感覚あふれる成熟したポップ・ソウル作品に仕上がった。子供時代からボーカルとして早熟しようとしてきたマイケルは努力しなくても大人になっていた。

 マイケルがあの声をうまく操れたのは、こういった経験があったからに違いない。そして、だからこそ「今夜はドント・ストップ」「ロック・ウィズ・ユー」といった数々のすばらしい歌を歌うことができた。「ロック・ウィズ・ユー」の歌詞では、自身の天性のフットワークについても歌っている――「ダンスするとき、すばらしいマジックが起きる」

世界を変えた『スリラー』

『オフ・ザ・ウォール』の芸術性には驚かされたが、次のアルバム『スリラー』が起こした社会現象は世間の想像を上回るものだった。マイケルの目標はこのアルバムの全てをシングルヒット曲で埋め尽くすこと。それは完璧には達成でなかったかもしれないが、『スリラー』はファンが熱狂する傑作アルバムに仕上がり(現在までに全世界で推定1億枚売れている)、彼は「キング・オブ・ポップ」になった。

『オフ・ザ・ウォール』と『スリラー』のどちらの出来がいいか、という議論は今後も続くだろう(個人的には前者だ)。だがマイケルは『スリラー』で音楽だけでなく、音楽を取り巻くすべての世界を変えた。MTVの絶頂期にあって、マイケルは黒人のビジュアルがマイナスに働かず、むしろそのビジュアルによってファン層を広げた初の黒人アーティストになった。彼によるパフォーマンスとプレゼンテーションに対する理解力は比類なきものだ。

 その後に出したアルバムは『スリラー』の高みに達することはできなかったが、それでもマイケルの「スペクタクルぶり」は健在で、ミュージックビデオを出すたびに大旋風を巻き起こした。MTVアワーズの賞の1つに今もマイケルの名が刻まれているのはこのためだ。

 歌手として、ソングライターとして、パフォーマーとして、ダンサーとして、マイケルはこれからも人類史上最高の才能に恵まれ、想像力に富む並外れたミュージシャンの1人であり続ける――彼の何が変わろうとも、この事実だけは変わらなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感指数、2月は91.2に上昇 雇用

ワールド

ウクライナ大統領「独立守った」、ロ侵攻から4年 G

ワールド

米、重要鉱物価格設定にAI活用検討 国防総省開発

ビジネス

AIが雇用市場を完全に覆すことはない=ウォラーFR
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 6
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 7
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 8
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 9
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 10
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中