最新記事
ウィキペディア

ウィキペディア編集者を襲う憎悪と脅威...銃を持った男の乱入が示した深刻な現実

WIKI EDITORS UNDER ATTACK

2025年11月24日(月)18時50分
スティーブン・ハリソン
PHOTO ILLUSTRATION BY AVISHEK DASーSOPA IMAGESーREUTERS

PHOTO ILLUSTRATION BY AVISHEK DASーSOPA IMAGESーREUTERS

<ニューヨークで開催されたウィキペディア編集者の国際会議で、銃を持った男が壇上に乱入する事件が発生した。危機は参加者の機転によって回避されたものの、世界中のウィキペディアンが日常的に直面する脅迫、嫌がらせ、投獄といったリスクの深刻さが改めて浮き彫りとなった>


▼目次
ウィキペディア編集者への嫌がらせ・暴力リスクは一般にほとんど知られていない
嫌がらせで精神的ケアが必要になる編集者も
「百科事典」は常に権力の反発を受けてきた

講演のさなかに男がステージに突進したとき、100人超の聴衆は事態をのみ込めなかった。

10月17日、ニューヨークで開かれたウィキペディアンことウィキペディア編集者のカンファレンス。壇上では、ウィキペディアを運営するウィキメディア財団のマリアナ・イスカンダーCEOがスピーチをしていた。そのため一部の参加者は、財団への抗議だろうかと思った。一方で、奇妙だが無害なパフォーマンスかと思った人もいた。

「ウィキペディアを嫌っている人は山ほどいるから、『ネットのどんな怪しいかいわいの人だろう?』って思った」と、カンファレンス主催者の1人で最前列に座っていたモリー・スターク・ディーンは言う。

だが次の瞬間、聴衆は男が銃を握っていることに気付いた。

男は首に「非接触型・非犯罪性小児性愛者(子供を性的な対象とするが、実際の加害行為はしていない人々)」と書かれた札を下げ、肩には「未成年に引かれる人」と名乗る人々が使うピンク・黄・白のストライプ旗をまとっていた。男はウィキペディアの「小児性愛者だと自認する編集者は、無期限でブロック・追放される」という条項に抗議し、自ら命を絶つと言った。

男は銃を自分の頭に向けたり、天井に向かって振り回したりしていた。そこへ「ウィキペディア編集者」と書かれた青いキャップをかぶった男性が、男を背後から強く抱き締めた。さらにもう1人が男の腕をつかみ、銃をもぎ取った。実弾が込められていたと、警察当局者は後に認めた。

危機を食い止めたのは、警官でも警備員でもないベテラン編集者、リチャード・ニペルとアンドルー・リー。男がニューヨーク市警に拘束されると、2人はウィキペディアの仲間たちから称賛を浴びた。イーロン・マスクなど保守派の主張とは異なり、この共同体はあらゆる政治的立場の人々を包み込んでいる。

「リチャードとアンドルーに祝福を」と、保守派の編集者ヤロン・コーレンはフェイスブックに投稿した。「2人の行動は勇気と機転にあふれ、(男を抱き締めたことで)相手への思いやりも示した」

翌日の講演者アニー・ラウワーダも「英雄だ!」と投稿し、「公益のために勇気ある行動に出るのは、まさにウィキペディアン」とたたえた。さらに、男をなだめて「メンタルヘルスの応急処置」をしたベテラン編集者のジェイク・オーロウィッツにも賛辞を贈った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBはAI導入に伴う構造的な失業率上昇を相殺でき

ワールド

中国軍の汚職粛清、指揮系統・即応態勢に打撃=英国際

ワールド

トランプ氏「加齢で不安定化」、米世論調査で6割 共

ワールド

ウクライナ紛争、西側の介入で広範な対立に=ロシア大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 5
    ペットとの「別れの時」をどう見極めるべきか...獣医…
  • 6
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 7
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 8
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 9
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 10
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中