クモは命がけで恋をする――養老孟司×阿川佐和子が語る「生き物としての男女の壁」
「おばあちゃん仮説」をご存じか
【養老】女性は胎児のとき、卵巣に卵の素になる細胞が800万あるんですよ。それが生まれたときは80万になってる。
【阿川】生まれるまでにそんなに減っちゃうんですか。
【養老】そうです。それがどんどん分裂させられて途中で死んでいく。月経は子宮の壁を着床のために準備するけど受精卵が着床しない。無駄になって流しちゃう。それで、また改めて作り直して、また無駄になってという繰り返しでしょう。だから、月経は子宮が流す血の涙であると。
【阿川】まあ、文学的なこと。
【養老】卵巣が片側ずつ交互に排卵していって、生涯に500ぐらい卵を排出する。80万のうち500しか使わないんですよ。しかもほとんどが無駄死にしていくんです。500も子ども産めませんからね。
【阿川】私、全部無駄でした(笑)。
【養老】それしか使わないのに、ある程度の年齢になると閉経してしまう。
【阿川】どうしてだ?
【養老】人間が早めに閉経しちゃうのはなぜかというのはけっこうむずかしい問題でね。しかも、人間は更年期以降の期間が長いでしょう。だから、最近は更年期がある理由として、人間は子育ての期間が長くなっちゃってたいへんだからっていう説があるんです。たいへんだから閉経して、おばあさんが孫の面倒を見るんだとか言ってますよね。僕はそんなこと信じてない。偶然なんだろうと思ってますけどね。
閉経後の女性はどう生きるか
【阿川】男性には更年期はないんですか?
【養老】実質的にはダメになっちゃうかもしれないけど、精子をつくることは生涯続くんです。そういう意味では、更年期がない。
【阿川】極端な話、死ぬ直前まで子どもをつくる能力があるんですね。
【養老】あります。
【阿川】あっ、そうすると、女は中年以降は無駄に生きてるってことですか?
【養老】そう。
【阿川】男は中年以降も無駄に生きてないとおっしゃりたいんですね(笑)。
【養老】別にそう言いたかったわけではないんだけど(笑)、生物学的に言うとそうなっちゃう。特に今、生物学は遺伝子を残すってことを非常に重視しているから。
【阿川】じゃあ、無駄に生きている中年以降の女は、どうすりゃあいいんですか?
【養老】遺伝子を残すことを優先するんだったら、ロートルになった女性がわざわざ自分で子どもを産んだりしないで、孫の面倒を見るほうがいいでしょう。
【阿川】産む役割を果たしたら、あとはそれを育てて面倒を見るという役割を担って、というのが女性の生涯の変遷ですか。
【養老】だから、クジラに閉経期があるならば、クジラもそうやってるのかという問題があるんですね。
【阿川】クジラがねえ、孫の面倒見てるのかどうか......。
【養老】そこらへんがハッキリしてこないと、確実なことは言えないんですよ。
【阿川】クジラに訊(き)いてみたい。
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