最新記事

日本社会

高度成長期を支えたマンモス団地「松原団地」60年の歩み 建て替え進み多世代共生の新しい街へ

2022年8月28日(日)11時00分
鳴海 侑(まち探訪家) *東洋経済オンラインからの転載

特に松原団地にとって大きな効果があったのは、1985年9月にC地区南側の市道地下に完成した最大6600立方メートルの貯水槽と同年10月に貯水槽の隣接地に完成した松原排水機場だろう。この2つの施設が完成した後、冠水・浸水は大幅に改善した。さらに1992年の綾瀬川放水路完成により、冠水・浸水被害は完全に過去のものとなった。

都市型洪水が解決するころになると、松原団地の入居開始から30年が経過していた。その間に団地へのアクセス路線の東武伊勢崎線は爆発的な乗客数の増加を受けて高架複々線化事業を行っていった。1997年には松原団地駅もほぼ現在のような駅の姿になり、駅改札の位置も変わった。

獨協大学前<草加松原>駅

1961年に開業した松原団地駅。2017年には獨協大学前<草加松原>駅と改称された(筆者撮影)

同時期には駅西口の再整備が計画された。主な内容は高層賃貸マンションを中心とした複合施設を建設し、駅前広場を移設するというもので、1996年に事業を開始した。1999年には30階建ての高層賃貸マンション「ハーモネスタワー松原」が完成し、翌年には草加市中央図書館の入る複合施設が完成した。

さらに駅前の再整備と並行して、住民の入れ替わりも増えていった。2000年の国勢調査を見ると、再開発が行われたA地区を除いた3地区平均で居住年数10年未満の住民は全体の36.4%、5年未満に絞れば19.4%だった。

こうした入れ替わりは、団地住民が近隣エリアで一軒家を購入し、家族ぐるみで転出したこと、また松原団地が市場家賃よりも家賃が安く、若い世代や民間の賃貸住宅に入居できない高齢者が転入してきたことが理由として挙げられる。

特に高齢者の転入は高齢化率を押し上げた。1995年の国勢調査では高齢化率は10%台半ばであったが、その後は5年ごとの国勢調査で大きく高齢化率はあがり、2005年には46.7%になった。

この頃になると、入居開始当初は最新鋭の設備だった居室も40年が経過し、そのあいだに住宅のスタイルが多種多様になったこともあって、時代遅れの設備が目立つようになった。また日本住宅公団も組織と役割を変化させていったことなどから、なかなか既存の住宅へのフォローアップも進まず、設備の老朽化や住民の高齢化といった言葉が団地のイメージにつきまとうようにもなっていった。

2003年から始まった建て替え事業

2000年代に入り、高齢化や設備の老朽化が深刻になるなか、2003年から松原団地の建て替え事業がはじまった。約60ヘクタールの広大な敷地で324棟の住棟が関わる巨大事業であるため、UR都市機構、草加市、そして松原団地に隣接する獨協大学の3者連携の下で5期に分けて進められている。

建て替え事業の大きなポイントは住棟の集約にある。324棟の住棟をすべて取り壊し、旧A地区と旧B地区に新しく建てた中高層の住棟30棟に集約を図った。

住棟は大きくなったと同時に配置については同じ方向を向いていた従来のスタイルを転換し、住棟によって向きを変えた。そのうえで新団地内の敷地が周囲に対して閉じた空間にならないように広場やプロムナード、歩道を整備し、多世代共生に向けて子育て支援施設や高齢者福祉施設を誘致した。住戸については多様化する生活スタイルに合わせ、菜園テラスがついた住戸やペットと共生できる住戸など多様な住戸構成とした。

新しい住棟から構成される住宅団地は「草加松原団地」からUR都市機構の展開する賃貸住宅のブランド名をとって「コンフォール松原」になった。

コンフォール松原

松原団地を建て替え、誕生した「コンフォール松原」(筆者撮影)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

2回目の関税交渉「具体的に議論」、次回は5月中旬以

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決

ビジネス

マイクロソフト、トランプ政権と争う法律事務所に変更

ワールド

全米でトランプ政権への抗議デモ、移民政策や富裕層優
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中