最新記事

日本社会

「名前覚えたからな。夜道、気をつけろ」 ゴネ得知る迷惑客がコールセンターで執拗に食い下がるワケ

2022年6月12日(日)16時40分
吉川 徹(元コールセンター従業員) *PRESIDENT Onlineからの転載

これに対し、DランクやEランクのお客は、その月の20日ぐらいから電話がとまりはじめる。この人の場合は何度も利用停止になっているため、日にちがさらに1日早まったようだ。

「利用停止の日は機械が決めていまして、こちらではどうすることもできない(※13)んです」

※13:こちらではどうすることもできない......システム上の決めごとなので力になりたくても何もできない。お客もわかっているが、怒りの持っていき場がなくオペレーターに向かって怒るのかもしれない。

「それじゃあ機械をなんとかしろよ! こっちはこれまで20日だったから今月もそのつもりでいたんだよ! 19日だと電話を使えない日が1日増えるんだよ! 仕事で使ってるんだよ!」

お客の怒りをただ聞いているしかなかった。通話時間は30分が経過した。みんな昼休み(※14)に行ってしまい、グループで残っているのは私ひとりだ。通常はSVだけは残ってくれるが、日曜日の今日は2人いるSVの両方が運悪く休んでいて、もうひとつのグループのSVはどこにいるのか姿が見えない。ひとりでどうにかするしかなさそうだ。大声で怒鳴られ続けて耳が痛くなったので、ヘッドセットを耳からずらして、怒鳴り声を外に逃がすようにしていた。

※14:昼食は休憩室で食べるか、外に食べに出るかのどちらかだった。業者が300円の弁当を売りに来ており、私はそれを買って公園で食べることもあった。

わかってはいるんだけど...そして男は解約した

すると怒鳴り声がやみ、声の調子が変わった。

「あんたみたいに聞いてくれた人は初めてだよ」

ヘッドセットのずれを戻して聞いた。

「払わない俺が悪いんだけど、いつも頭ごなしに『できない、できない』って言われて、それで俺も腹が立って怒ってしまうんだよ。でも、あんたは違った。俺の話をちゃんと聞いてくれた」

ちゃんと聞いていたわけではなく、ヘッドセットをずらしていただけだが、どうやら信頼されてしまったようだ。

「またあんたと話できるか?」
「私もお話しさせてもらいたいんですが、指名を受けるということができません。今日お聞きした内容は記録にきちんと残させてもらいますので」

オペレーターにできることは、利用停止になる前に払ってくださいとお願いすることぐらいしかない。

「わかった。来月とまったら、また電話するわ」

どうせ払うなら、とまる前に払えないものだろうか。

吉川徹『コールセンターもしもし日記』(三五館シンシャ)一度頑張って期限内に払えば、支払いのサイクルが正常な形に戻る。そのサイクルを崩さないようにすれば利用停止にはならず、毎月怒って電話をかけてくるようなことにはならない。この人はオペレーターの話を聞くことができる。支払いも正常な形に戻せるはずだ。

翌月の19日。男のことが気になり、夕方になって電話が落ち着いたときを見計らい、データを呼び出し応対履歴を見てみた。オペレーターはお客との会話の内容を応対履歴に残さなければならないため、応対履歴を見れば、どのオペレーターが話をしたのかもわかる。男は予告したとおり電話してきていた。女性オペレーターが機械的な応対をしてすぐにSVに交代、SVが頑張るがさらに課長に代わり、課長はなんの話もできないまま通話を打ち切られていた。

さらにその次の月の19日。調べてみると男は電話を解約していた。

吉川 徹(よしかわ・とおる)

元コールセンター従業員
1967年新潟県生まれ。大学卒業後、JAの全国連合会に就職するも、過度なストレスで体調を崩し、退職。その後、派遣社員として、ドコモの携帯電話料金コールセンター、プラズマテレビのリコール受付、iDeCo(個人型確定拠出年金)の案内コールセンターなどに勤務。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中