最新記事
大河

実力で抜擢した信長、夢で動かした秀吉...戦国リーダーの人材活用術

2026年2月11日(水)13時41分
昼間 たかし (ルポライター*PRESIDENT Onlineからの転載 )

秀吉の気分次第で決まる"危うさ"

清正や正則には武勇の場を、三成には実務の場を与える。

秀吉は、人材を見抜いた瞬間に「こいつをどこに配置すれば最大限の成果が出るか」を即座に判断し、実際にその通りに配置した。そして成果を上げれば、徹底的に評価した。

清正のような「武功派」も、三成のような「実務派」も「秀吉のもとなら自分の実力が認められる」と確信できたからこそ、全力で働いたのである。

しかし、ここに致命的な問題があった。秀吉は、これらすべてをフィーリングでやっていた。「こいつは!」と思ったら気に入って使いまくるが、何かちょっとカチンとくることがあれば、すぐにクビにする。しかも、その基準が一貫していない。

古くから仕えてきた尾藤知宣、神子田正治、仙石秀久......いずれも秀吉に重用されていた武将たちだが、一度の戦でやらかしただけで容赦なく追放された。仙石秀久だけは後に徳川家康の縁を頼って大名復帰を果たしたが、尾藤知宣と神子田正治は何度詫びても許されず、最終的には処刑されている。

信長の成果主義は冷徹だった。成果が出なければクビ。しかしその基準は明確で「何をすれば評価されるか」は分かっていた。

一方、秀吉は違う。普段は失敗しても許される。「まあ、次頑張れ」と笑って済ませることもある。しかし、秀吉の機嫌が悪いときにやらかすと、すべてが終わる。これは組織にとって極めて危険な状態である。

「夢」を語った秀吉、「現実」を管理した秀長

家臣たちは、「何をすれば評価されるか」ではなく、「秀吉の機嫌をどう読むか」に神経を使わなければならない。成果を出しても、秀吉の虫の居所が悪ければ意味がない。逆に、失敗しても秀吉のご機嫌が良ければ許される。気分屋すぎるのである。

信長の成果主義は冷徹だったが、少なくとも予測可能だった。秀吉の人事は温情的に見えたが、実際には予測不可能だった。これは、長期的には組織を疲弊させる。

そして、この秀吉の「気分屋」ぶりを止める役割を果たしていたのが、弟の秀長だったというわけだ。

秀吉が「夢」を語る一方で、秀長は「現実」を管理した。秀吉が家臣を焚きつけて無理な計画を立てれば、秀長が「兄上、これは予算が足りません」と止める。秀吉が感情的に誰かをクビにしようとすれば、秀長が「もう一度、話を聞きましょう」となだめる。

秀長のブレーキがいかに重要だったかは、彼の死後の秀吉の暴走や、極めつけには後継者の秀次を切腹に追い込んだことからも明らかだろう。

フィーリングの天才にはストッパーが欠かせない。これをしくじってコケてる会社というのは現代でも多い。

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月7号(3月31日発売)は「日本企業に迫る サステナビリティ新基準」特集。国際基準の情報開示や多様な認証制度――本当の「持続可能性」が問われる時代へ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

エジプト大統領、トランプ氏にイラン紛争停止訴え 原

ワールド

トルコ領空にイラン発射の弾道ミサイル、NATO迎撃

ワールド

サウジ紅海側ヤンブー港の原油輸出量、最大能力付近の

ビジネス

金融政策「良い位置」、イラン情勢の影響見極め可能=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 6
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 7
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 8
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 9
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 10
    イタリアに安定をもたらしたメローニが国民投票で敗…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中