最新記事

映画

「おまえは俳優じゃない。ただの映画スターだ!」──「本当のニコラス・ケイジ」を探し求める、本人主演作とは?

Nicolas Cage in Search of Self

2023年3月31日(金)15時00分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

低迷を乗り越えた先に

一方、互いの顔を移植した2人の男の対決を描く『フェイス/オフ』は、ケイジ的アイデンティティーの謎を正反対の方向へ推し進めた。ここでは、大物スターとしてのケイジの人格が、これまた大物スターであるジョン・トラボルタの肉体にはめ込まれ、トラボルタという個性がケイジの肉体に移される。

公開当時は酷評された『バンパイア・キッス』(89年)での怪演以来、表現主義的な演技を追い求めてきたケイジにとっては絶好のチャンスだった。

その演技が頂点に達するのが、中身は高潔なFBI捜査官だが、凶悪テロリストとして振る舞うケイジが、暴力への嫌悪と喜びを同時に表現する場面だ。大物スターのカリスマが重なり合い、重層的な演技が披露されている。

12年ほど前、筆者はケイジのキャリアを振り返る記事を書いた。主演したディズニー映画『魔法使いの弟子』の公開直後で、公私の両面で厳しい時期を迎え始めていた頃だ。

その後の約10年間、ケイジはふさわしい役を求めて苦闘し、悪名高い浪費癖(あのレオナルド・ディカプリオに競り勝って、恐竜の頭蓋骨の化石を27万6000ドルで落札した過去もある)のせいで、金銭問題に苦しむことになる。

83年の出演作『ヴァレー・ガール』で、あの独特の眉毛がシャワーカーテンの上から現れるのを見て以来愛し続けてきた異色の俳優が、平凡なハリウッド大作の迷宮へ消え去るのではないか......。

だが十数年前に抱いた、そんな懸念は間違っていた。ケイジのキャリアを総括するのは、当時も今も時期尚早だ。12年後にまた、振り返ってみることにしよう。

©2023 The Slate Group

THE UNBEARABLE WEIGHT OF MASSIVE TALENT
マッシブ・タレント
監督╱トム・ゴーミカン
主演╱ニコラス・ケイジ、ペドロ・パスカル
日本公開中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国恒大、23年決算発表を延期 株取引停止続く

ワールド

米政権、大麻の規制緩和へ 医療用など使用拡大も

ビジネス

アマゾン、第1四半期業績は予想上回る AIがクラウ

ビジネス

米研究開発関連控除、国際課税ルールの適用外求め協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 6

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中