最新記事

インド

時代遅れになるボリウッド コロナ禍と動画配信の台頭で興行不振

2022年9月5日(月)12時20分
ニューデリーの映画館

インドのヒンドゥー語映画産業「ボリウッド」は壊れているかもしれない。ニューデリーの映画館前で8月撮影(2022年 ロイター/Adnan Abidi)

インドのヒンドゥー語映画産業「ボリウッド」は壊れているかもれしれない。彼ら自身がそのことを認識している。

大スクリーンで全編にわたって素晴らしい歌とダンスが繰り広げられるボリウッド映画は厳しい現実から逃れられる娯楽として、インド国民や世界中の人々を長らく魅了してきたが、最近は興行面で不振が続いている。

兄と妹たちのきずなを描いた新作「ラクシャバンダン」の興行成績がさっぱりだったことを受け、ボリウッドの大スターで主演を務めたアクシャイ・クマールさんは先月記者団に「映画がうまくいっていない。これはわれわれ、そして私の責任だ。私はいろいろと変えなければならないし、観客が何を望んでいるか理解する必要がある。私の映画はこうあるべきという概念をたたき壊したい」と胸の内を語った。

実際、インド現代文化の1つの柱だったボリウッドは曲がり角を迎え、その輝きは色あせつつある。

特に若い世代は多くのボリウッド映画を時代遅れで「格好悪い」とみている。そこに折あしく登場してきたのがネットフリックスやアマゾン・プライムといった動画配信サービスだ。

業界データを分析するウェブサイト「コイモイ」によると、今年公開されたボリウッド映画26本のうち何と20本(77%)は、収入が投資額の5割かそれ以下にとどまった「失敗作」になった。2019年の失敗作の比率はその半分程度だったが、新型コロナウイルスのパンデミックによって社会が一変し、何十年もボリウッド映画の主な収入源だった映画館から人々が遠ざかってしまった。

ボリウッドの拠点ムンバイで暮らす女性で、2人の10代の娘を持つクリスティナ・スンダレサンさん(40)はパンデミック発生前まで、最低でも週に1回は映画館でボリウッド映画を楽しんでいたにもかかわらず、今は滅多には足を向けない。「笑いが必要な時にボリウッド映画は向いているけれど、もうわざわざ映画館に鑑賞には行かない。昔はどの映画にも一緒についてきた娘たちも、動画配信プラットフォームで韓国のショーやドラマにはまっている」という。

海外の動画配信サービスに流れたのは彼女らだけではない。ネットフリックスとアマゾン・プライムがインドでサービスを開始したのは2016年と比較的最近だが、欧米やインド、その他アジアで制作された「パラサイト 半地下の家族」「アベンジャーズ」「イカゲーム」などさまざまな人気作品を提供している。

市場データ会社スタティスタの分析では、19年にインド国民14億人の約12%だった動画サービス利用者は足元で25%に増加している。この比率は27年までに31%する見通しで、さらに上振れる余地もある。例えば北米では利用率はおよそ80%に達しているからだ。

時代への順応必要

インドの映画興行収入はでは19年まで毎年着実に増加し、同年には20億ドル前後に達した。その後パンデミックで落ち込み、現在も持ち直す気配は乏しい。

今年3月以降、興行成績は毎月悪化し続けている。投資銀行エララ・キャピタルの調査に基づくと、特にボリウッド映画は7-9月期に45%の減収が予想される。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中