最新記事

映画

経済失速の韓国で大ヒット『パラサイト』 カンヌは「万引き」の次に「寄生」する格差社会作を選んだ

2019年6月13日(木)19時30分
杉本あずみ(映画配給コーディネーター)

カンヌ国際映画祭で受賞したパルム・ドールの盾をもって韓国仁川国際空港に帰国したポン・ジュノ監督(左)と主演のソン・ガンホ

<2年連続でアジア作品が最高賞を獲得したカンヌ国際映画祭。そこには日本や韓国に限らず、経済格差が拡大する世界への危機意識がうかがえる>

2018年のカンヌ国際映画祭では、日本の是枝裕和監督の『万引き家族』がパルム・ドール(最高賞)を受賞し、日本国内でも大いに話題になった。そして今年5月26日、第72回カンヌ国際映画祭では、クエンティン・タランティーノ監督の話題作などを押さえて、去年に続きアジアからポン・ジュノ監督の韓国映画『パラサイト』(原題『寄生虫』)がパルム・ドールを獲得した。今年は韓国映画誕生100年という節目の年で、そこに韓国映画初のパルム・ドール受賞とあって、韓国国内ではニュースなどでも大きく伝えられた。

このため、昨年『万引き家族』がパルム・ドールを受賞した日本と同様、韓国国内でこの作品に対する注目は高く、受賞発表から4日後の5月30日に韓国内で公開が始まったが、封切り初日から『X-MEN:ダークフェニックス』『アラジン』といった人気エンタメ映画を抑えて興行ランキング首位に立ち、すでに14日目の時点で751万9960人の動員を突破。韓国での映画大ヒットの基準となる1000万人観客動員も時間の問題と言われている。この人気を受け韓国の3大シネコンチェーンの一つメガボックスでは、英語の字幕付きでの上映を開始した。在韓外国人にも幅広く観覧してほしいという気持ちがうかがえる。

ところで、ポン・ジュノ監督とカンヌ映画祭といえば、2年前の映画『オクジャ』が記憶に新しい。今回同様コンペティション部門に出品された『オクジャ』だったが、Netflixオリジナル製作作品だったこともありフランス国内での劇場公開が正規では行われず、「これは映画ではない」と批判されるなど、古くからの伝統を重んじるカンヌ映画祭で波紋を広げた。そのため上映前には一部観客からブーイングが起こったほどだったという。

この問題は大きく取り上げられ、その後現在まで続く「配信系制作の劇場未公開作品は"映画"と言えるか?」という論争に繋がっていく。さらに、論争はカンヌ映画祭だけに収まらず、映画『オクジャ』は韓国国内上映の際にも三大シネコン会社(CGV/ロッテ/メガボックス)からそれぞれ上映ボイコットを受ける事態へと発展した。理由は、劇場公開と同時に配信を開始したNetflixに対する映画界からの抗議のためだ。このように、前作『オクジャ』は残念なことに作品内容以外の部分で注目を集める形となってしまった。そういった苦い過去を含め、今回のポン・ジュノ監督の新作がパルム・ドールを受賞したことは作品自体が評価された意味のある受賞となった。

さて、受賞作の映画『パラサイト』はどういった作品なのだろう。韓国国内用、海外用ともに、ポスターにはある家族の姿が映っているが、顔には目に線が入っていて少し不気味な印象だ。ジャンルは、ブラックコメディーという意見もあれば、現代版のホラーだとも評価されている。


カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『パラサイト』 CJ Entertainment Official / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米9月PPI、前年比2.7%上昇 エネルギー高と関

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、10月は1.9%上昇 ローン

ビジネス

米9月小売売上高0.2%増、予想下回る 消費失速を

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中