最新記事

カナダ

水のボトル6本が2000円 カナダ極北部の人びとを苦しめる物価高

2022年8月15日(月)13時00分
カナダ最北部のヌナブト準州にある食料品チェーン、ノースウェスト・カンパニーの店舗

カナダ北部の辺境地帯に暮らす人々は、以前からずっと食料購入にかなりの金額を投じてきた。昨今の物価上昇は、ただでさえ厳しい状況をさらに悪化させている。同国最北部のヌナブト準州にある食料品チェーン、ノースウェスト・カンパニーの店舗で7月28日撮影(2022年 ロイター/Carlos Osorio)

カナダ北部の辺境地帯に暮らす人々は、以前からずっと食料購入にかなりの金額を投じてきた。昨今の物価上昇は、ただでさえ厳しい状況をさらに悪化させており、世界有数の穀物・食肉輸出国であるカナダの弱点が露呈している。

カナダ最北部を構成する3つの準州のうち、最大のヌナブト準州では、複数のコミュニティーを相互に結ぶ道路がなく、生鮮食品は週に2回の空輸に依存せざるを得ない。永久凍土と、ほぼ1年を通じて氷点下になる気温のため、農作物の栽培はほぼ不可能だ。

新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)と、ロシアのウクライナ侵攻がもたらしたサプライチェーンの混乱を受け、貧困国における食糧事情はさらに悪化した。ヌナブト準州での状況は、小麦・豚肉の輸出量で世界第3位であるカナダのような富裕国でさえ、貧困地域では被害が生じていることを示している。

ヌナブト準州の州都イカルイトの店舗ではこのところ、チェリー1袋が21カナダドル(約2200円)、ボトル入り飲料水6本パックが19カナダドル(約2000円)で販売されている。いずれも、同国南部の2倍の価格だ。ソフトドリンク12缶入りパックは27カナダドルで、南部の3倍に上る。

イカルイトに住むナサニエル・シュイナードさん(35)によれば、従来であれば6人家族の食費は2週間で500カナダドルだったという。だが今年1月以降、支出は2週間ごとに150カナダドルずつ増えた。

警備会社とIT企業を掛け持ちで働くシュイナードさんは「これまでより長時間働いて、何とかやっている」と語る。「家族と過ごす時間は減っているが」

イカルイトで困窮者に無料の食事を提供している、いわゆる「スープキッチン(炊き出し)」のカジュクトゥルビク食品配給センターによれば、今年6月までに提供した食事は2万食分。すでに、昨年1年間の回数に達してしまった。

同センターでエグゼクティブ・ディレクターを務めるレイチェル・ブレイス氏は「国内北部での食料不安により、すでにカナダ史上で最も長期にわたって、公衆衛生上の緊急事態が宣言されている」と語る。

「この7カ月で需要が急増しているのが心配だ」

ヌナブト準州のマーガレット・ナカシュク家庭サービス担当相は、食料不足のために子どもらは学校での勉強に悪影響が出ているほか、侵入窃盗を中心とする犯罪が増大していると言う。

「コストは増大」

カナダ北部での食品価格の上昇について、定量的な把握は難しい。国内統計局による北部準州地域でのインフレ測定は、主要都市3カ所における物価上昇を試算するだけに留まり、生鮮食品やエネルギーなどを除いた詳細な内容はない。

イカルイトの消費者物価指数は年初以来2倍に上昇し、インフレ率は6月には4.3%に達した。これはカナダ銀行(中央銀行)の目標である2%を大きく超えている。カナダ全土でのインフレ率8.1%よりはかなり低いが、その理由は主として、ヌナブト準州政府が価格高騰の前に燃料を一括購入していたためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国4月鉱工業生産、予想以上に加速 小売売上高は減

ワールド

訂正-ポーランドのトゥスク首相脅迫か、Xに投稿 当

ビジネス

午前の日経平均は反落、前日の反動や米株安で

ビジネス

中国新築住宅価格、4月は前月比-0.6% 9年超ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中