最新記事

日本経済

「アベノミクス」は終わらない 参院選後も継続見込む市場

2022年7月11日(月)11時51分
安倍晋三元首相

安倍晋三元首相(写真)が凶弾に倒れたことで、市場の一部ではアベノミクスの継続を不安視する声が出ている。だが今の経済状況では、金融緩和、積極的な財政、成長戦略という3つの柱をすぐにやめるわけにはいかない。2015年9月、都内で撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

安倍晋三元首相が凶弾に倒れたことで、市場の一部ではアベノミクスの継続を不安視する声が出ている。世界的なインフレにより、円安デメリットが以前より大きくなっていることが背景だ。しかし、第2次安倍政権以降の2つの内閣もその路線を継続したように、今の経済状況では、金融緩和、積極的な財政、成長戦略という3つの柱をすぐにやめるわけにはいかない。金融市場を巡る状況に、当面変化はないとの見方が多い。

逆風の金融緩和

アベノミクス第1の柱、金融緩和に逆風が吹いている。批判の対象は、日銀の低金利政策そのものではなく円安だ。インフレ進行を背景に、世界の中銀が金融引き締めに動く中、日銀は主要国で唯一、金融緩和姿勢を維持。内外金利差拡大が円安の大きな要因となっており、物価高を助長していると指摘されている。

しかし、円安を止めるべきかという点には議論の余地がある。「円安デメリットが取り上げられることが多いが、円安のメリットを受けている企業はたくさんある。声を挙げないだけだ。総合的にみれば円安は日本にとって依然としてプラス」と、マネックスグループ社長の松本大氏はみる。今年度も最高益を見込む企業は多い。

また日銀が動けば、円安に歯止めが掛かるのか、金利引き上げのメリットは円安デメリットを上回るのかという点もはっきりしない。日本経済の現状からみて、利上げできる幅は限られているというのが、市場のほぼ一致した見解だ。手詰まり感が出れば、投機勢の攻撃はさらに強まる。

市場における金融政策変更の予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)金利1年物は8日、安倍元首相銃撃の急報を受け上昇したが、水準は日銀の政策修正に対する思惑が強まり円債市場が大荒れとなった6月15日の水準の約9分の1(1年物)にすぎない。動揺した株や為替も戻している。

複雑化した今の金融政策の修正を次期日銀総裁に望む市場の声は多い。ただ、「候補とみられている雨宮正佳氏と中曽宏氏は、黒田東彦総裁の下での日銀執行部の一員。政策を180度転換するのは自己矛盾になってしまう」(パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏)との声も多い。

大幅緊縮難しい財政

財政政策もすぐに緊縮化するわけにはいかない。22年度一般会計予算の内訳をみると、社会保障関係費、国債費、地方交付税交付金の3つで4分の3を占める。バラマキを止め、財政健全化を進める必要はあるが、高齢化が進む日本では、いずれもすぐには大幅削減できない。財政支出を短期間で大幅に削減すれば、景気が悪化し、社会的な不安が高まるおそれが強まる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中