最新記事

M&A

LVMH、米ティファニー買収を断念 米関税めぐり仏政府が介入と説明

2020年9月10日(木)10時15分

高級ブランド世界最大手LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは9月9日、米宝飾品大手ティファニーを160億ドルで買収する計画を断念すると発表した。チューリヒで9日撮影(2020年 ロイター/ARND WIEGMANN)

高級ブランド世界最大手LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは9日、米宝飾品大手ティファニーを160億ドルで買収する計画を断念すると発表した。

米国による追加関税発動に向けた動きを理由にフランス政府から買収延期を求められたとした。これに対しティファニーは、合意通り買収を完了するよう求めてLVMHを提訴した。

LVMHは声明で、米国が仏製品に追加関税を課すと警告していることを踏まえて2021年1月6日以降に買収を先送りするよう求める書簡を仏外務省から受け取ったと説明。これにより、契約上の期限である11月24日までに買収を完了することができなくなったと主張した。

ルドリアン仏外相はLVMHのベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)への8月31日付の書簡で、「国益を守るためのわが国の取り組みに参加する必要性を理解してもらえると確信している」と記している。

ギオニー最高財務責任者(CFO)は9日、記者団との電話会見で「買収は不可能だ。われわれは買収完了を禁じられている」と断言。ルドリアン仏外相と会談したことを明かした上で、LVMHは仏政府の要請に従わなければならないが、買収完了期限を11月24日以降に先送りすることを望んでおらず、結果的に買収を断念せざるを得ないとした。

ブルームバーグは匿名関係筋の話として、アルノー氏が買収を撤回するため仏政府に協力を求めたと報じた。だがギオニー氏は、書簡は一方的に送られてきたもので、LVMHは全く予想していなかったと述べた。

仏外務省の報道官は記者団に対し、ルドリアン外相がLVMHのティファニー買収にかかる問題の詳細に取り組むと指摘。仏政府は提携国との国際交渉において「言いなり」にならないとした。

仏政府関係筋は書簡について、フランスが関税を巡り米国と論争する中で買収を行うことのリスクについて注意喚起する狙いだったとした上で、あくまで忠告であり、拘束力はないと述べた。ホワイトハウスは仏政府の介入についてコメントを控えた。

アナリストらは、フランスが米国との貿易摩擦でLVMHのティファニー買収をてこにしようとしたとの見方には懐疑的だ。

バースタインのアナリスト、ルカ・ソルカ氏は「仏政府は確かに国益保護非常に積極的だが、仏企業の買収阻止という形が大半のケースだった」と指摘した。

ティファニーは5─7月期の世界売上高が29%落ち込むなど、新型コロナウイルスの感染拡大が業績に影響しており、買収価格に割高感も出ている。

関係筋は6月にロイターに対し、LNMHのアルノー氏が新型コロナなどを理由に買収価格の再交渉を検討していると明かし、実現に不透明感が生じていた。

LNMHの発表に対し、ティファニーは、LVMHが契約上の義務を順守し、合意された条件で買収を完了することを求め、米デラウェア州の裁判所に同社を提訴した。合意を履行しない場合は損害賠償を求めている。

ティファニーは、LVMHが欧州連合(EU)、台湾、日本で規制当局の承認申請をしぶっていると主張した。また、ティファニーの状況が大幅に悪化した、もしくは買収合意に違反したという主張や、買収が仏企業としての愛国義務に合致しないという理由で買収を撤回するのは不当だとした。

9日の米国株式市場でティファニーは6.4%下落し、113.96のドルで終了。1株当たり135ドルの買収価格を大きく下回った。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる
・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ支援船団、イスラエル封鎖海域付近で船籍不明船が

ビジネス

ECB、資本バッファー削減提案へ 小規模行向け規制

ビジネス

アングル:自民総裁選、調和重視でも日本株動意の可能

ワールド

ザポリージャ原発、外部電源喪失1週間超 非常電源で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 3
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かった男性は「どこの国」出身?
  • 4
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 5
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 6
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 7
    10代女子を襲う「トンデモ性知識」の波...15歳を装っ…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    カーク暗殺の直後から「極左」批判...トランプ政権が…
  • 10
    アメリカの対中大豆輸出「ゼロ」の衝撃 ──トランプ一…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 10
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中