最新記事

自動車

電気自動車が安くなる「歴史の法則」

GMは年内発売の電気自動車「ボルト」の価格を4万1000ドルと発表。確かに高過ぎるが、価格はいずれ下がる

2010年8月2日(月)18時39分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

贅沢品 シボレー・ボルトの値段はアメリカの年間世帯所得の約8割に相当 Reuters

 ゼネラル・モーターズ(GM)は7月27日、アメリカで年内に発売する電気自動車「シボレー・ボルト」の希望小売価格を4万1000ドル(約360万円)に設定すると発表した。連邦政府から最大7500ドルの税控除を受けられるとはいえ、お世辞にも安いとは言えない。なにしろ、アメリカの世帯所得の中央値は5万ドルあまり(08年の数字)だ。

 懐疑論が噴き出すのは目に見えている。GMが販売しているガソリン自動車「シボレー・マリブ」の価格は、約2万1000ドル〜。価格に2倍近くの開きがあって、わざわざ買い換える人がどの程度いるのか。自動車メーカーが富裕層だけを相手にハイブリッド車や電気自動車を売り込んでいるようでは、地球を救うことなどできないのではないか。

 もっともな疑問だ。ガソリン価格が比較的低く、ガソリン専用車のほうがはるかに安く買えれば、ハイブリッド車や電気自動車の普及は一筋縄でいかないだろう。だが、そういう状況がずっと続くわけではない。懐疑論者は、テクノロジーの歴史を見落としている。

携帯電話とパソコンの歴史を見よ

 なるほど、今はマリブのほうが有利な点がいくつかある。少量生産のボルトに対し、マリブは大量生産。ボルトは新しい高価なテクノロジーを用いるが、マリブが用いるガソリン自動車テクノロジーは1世紀の歴史があり、コストが安い。しかも、ボルトのハイブリッド車・電気自動車市場にはまだ競争相手が少ないのに対し、マリブのガソリン車市場は競争が激しく、価格を抑えて市場シェアを拡大しようという貪欲なライバル企業がたくさんいる。

 しかし、ボルト(とそれを購入しようとする消費者)もいずれ、いまマリブが浴している恩恵にあずかることになるかもしれない。歴史を振り返れば、高級品としてデビューした商品の価格が予想以上の速さで下落し、多くの消費者に手が届くようになった例は、山ほどある。

 1990年に私が初めて買ったコンピューター(マッキントッシュだった)は2000ドル近くしたが、まだモデムがついておらず、モニターは悲しくなるほど小さかった。CD−ROMやメモリースティックではなく、フロッピーディスクにデータを保存していた。いま500ドル払えば、これより格段に性能のいいパソコンが手に入る。

 同様の現象は、製品だけでなく、サービスの分野でも起きる。25年前に携帯電話を買おうと思うのは、よほどの金持ちだけだった。携帯電話端末も通信料も非常に高額だったのだ。今では、端末の家格も通信料も安くなり、先進国では誰も彼もが携帯電話を持っている。

ガソリン車はこうして大衆化した

 実は、ガソリン自動車普及のプロセスにもこの価格下落のパターンが見て取れる。20世紀初めにアメリカで「自動車時代」が幕を開けた頃、自動車は金持ち用の高価なオモチャだった。周囲に自分の財力を見せつけるためのステータスシンボルだったのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中