最新記事

携帯市場

アップルのいつか来た道

マッキントッシュの敗北から学ばなければ、iPhoneはアンドロイド端末の大攻勢にのみ込まれるだろう

2010年1月15日(金)14時51分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 私が新米のテクノロジー担当記者だった頃、業界の最先端を走っていたのはミニコンピューターに取って代わろうとしていたデスクトップパソコンだった。今日、注目はスマートフォンと呼ばれる携帯情報端末に集まっている。その新しい市場の動きを見ていると、往年の名作を若手俳優でリメークした映画を見ているようだ。

 デスクトップの黎明期と同じように、端末はどんどん小型化している。基盤となる技術が急速に進化している点も同じだ。ハードウエアメーカーはどのインターフェースが利用者に支持されるか模索を続け、ソフトウエアメーカーは端末の新しい使い方を次々と提案している。そして最先端の技術革新が市場をリードする企業を脅かすことで、業界地図が塗り替えられようとしている。

 特に私が既視感を覚えるのは、アップルの対応だ。1984年、アップルは初代マッキントッシュを発売。視覚的に操作できる「グラフィックインターフェース」を採用した初の大衆向けパソコンで、業界トップに躍り出た。マイクロソフトがどうにか対抗できるOS(基本ソフト)「ウィンドウズ3・0」でマッキントッシュに追い付くまでに、なんと6年もの時間がかかった。6年間だ!

 この6年間、アップルは市場を独占した。にもかかわらず、現在はマイクロソフトのウィンドウズが世界を席巻し市場の90%以上を独占している。アップルのシェアは世界の5%にも満たない。

OSの非公開は大間違い

 現在の携帯電話市場を見てみよう。2007年6月にアップルはiPhoneを発売した。発売から2年半が経過した今も、革新的なこの端末に太刀打ちできる機種はない。

 スマートフォン市場ではノキアとリサーチ・イン・モーション(RIM)が今も大きなシェアを握っているが、アップルに比べればプラットフォームは時代遅れに感じられる。

 iPhoneはマッキントッシュと同じ運命をたどるのだろうか。勝利の喝采から敗北の屈辱へと転落するのか。それとも過去の経験から学習して勝ち組となるのか。

 マッキントッシュの最大の過ちは、他の企業にOSの使用を許さなかったことだ。その理由は、CEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズが、ソフトウエアはハードウエアと一体であるべきだと考える仕切り屋だったから。

 マイクロソフトは正反対の戦略を取り、どのパソコンメーカーにもウィンドウズOSの使用を許可した。これには一長一短がある。マイクロソフトはユーザーの使用感を管理できなかったが、一方で機種の多様性は広がり、価格は下がった。「十分に使える」安価なパソコンは、アップルの完璧だが高価なパソコンに勝ったのだ。

 アップルはある意味、iPhoneで84年を再現しているといえる。アップルはマッキントッシュと同様、iPhoneのハードウエアとソフトウエアを一元的に管理している。一方で、競合他社はマイクロソフトの手法を採用した。その筆頭のグーグルはスマートフォン向けOSの「アンドロイド」を開発し、どの携帯電話メーカーも無料で使用できるようにした。アンドロイドはiPhoneではできないこと、例えば複数のアプリケーションを同時に動かすことも可能だ。

 アンドロイドにもウィンドウズと同じく一長一短がある。機種の多様性が広がり価格が下がる一方、ソフトの安定性は弱いだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:利上げは来年3月か、ETF売却開始「

ビジネス

フィリピン中銀、銀行に50万ペソ超える取引の審査強

ワールド

トランプ氏のアフガン基地返還要求発言、米政府関係者

ビジネス

オムロン、電子部品事業を26年4月めどに分社化 外
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中