最新記事

アメリカ経済

恩知らずカード業界が大暴走

金利30%時代へ? 税金で救済された銀行などによるクレジットカードの金利引き上げが止まらない

2009年11月9日(月)18時54分
ナンシー・クック

 マサチューセッツ州に住む37歳のテクノロジーアナリスト、ポール・アンティコは、このところ財布に大打撃を受けている。原因はクレジットカードだ。

 バンク・オブ・アメリカは、アンティコのクレジットカードの金利を固定金利制から変動金利制に変更。シティバンクは、この半年足らずの間に金利を5.99%から14.99%に引き上げた。一度も返済を滞らせたことなどないのに、この仕打ちだ。

「裏切りに等しい」と、アンティコは言う。「私たちが(税金で)銀行を生き延びさせているのに、お礼を言われるどころか『くたばりやがれ! これが新しい高い金利だ』と言われるのだから」

 ピュー慈善トラストのセーフ・クレジットカーズ・プロジェクトの最近の調査によると、この4カ月、アメリカのクレジットカード業者は新しい手数料の導入、融資契約の内容変更、金利の引き上げを繰り返している。30%もの高金利が設定されているケースもあるという。

「不況=カード金利上昇」の法則

 米政府も手を打っていないわけではない。5月に成立したクレジットカード新法は、カード業者による手数料や金利の不公正な引き上げの禁止、21歳未満の顧客を特に標的にした勧誘の禁止、契約内容を利用者に分かりやすく示すことの義務付けなどを盛り込んでいる。

 問題は、この新しい法律が施行されるのが2010年2月だということ。法律の成立から施行まで8カ月も時間があれば業界が規制の抜け道を見つけ出してしまうと、消費者団体は指摘する。

 そこで、議会が再び動く可能性もある。上院のクリストファー・ドッド銀行住宅都市委員長は、既存のクレジットカードの手数料と金利を2月まで凍結することを提案。11月4日には、カード業界が手数料と金利の凍結に同意しなければ直ちに新法を施行するという内容の法案が下院で可決された。

 こうした動きに対してカード業界側は、新法に対応するためにはもっと時間が必要だと主張。業界も景気悪化により打撃を受けているのだと訴えている。「カード金利が上昇しているのは、利用者の抱える(貸し倒れの)リスクと経済全般におけるリスクが拡大していることが原因」だと、業界のロビイスト、スコット・タルボットは釈明する。「経済の堅調さとカード金利の間には、直接的な相関関係がある」

 カード業者が手数料や金利をいろいろ変更することには、長い目で見れば利点があるとの主張も業界側からは聞こえてくる。「新しい商品やサービスがたくさん登場するのは好ましいこと」だと、全米銀行協会のネッサ・フェディス副会長は言う。「(手数料や金利の変更に)利用者が対応することを通じて競争が加速される」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英CPI、4月前年比+2.3%で予想上回る 利下げ

ビジネス

独連銀、インフレリスクを警告 賃金が予想以上に上昇

ワールド

中国、ロッキードなど米軍関連企業12社と幹部に制裁

ワールド

イスラエル軍、ラファ中心部近くへ進軍 中部でも空爆
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 7

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中