最新記事

「iタブレット」が活字メディアを変える?

アップルの興亡

経営難、追放と復活、iMacとiPad
「最もクールな企業」誕生の秘密

2010.05.31

ニューストピックス

「iタブレット」が活字メディアを変える?

噂の新製品は、文章や写真とビデオや音楽の垣根を破る新メディアを生み出すかもしれない

2010年5月31日(月)12時04分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 アップルはペンや指を使って入力できる薄型コンピューター、タブレット型PCの開発を進めているとみられている。まだ存在もしないうちから、この「新製品」は既存の商品より盛んに批評されている。広まっている噂によると、この「iタブレット」(私が勝手に命名した)は来年1月に発表され、6月に発売されるという。

 07年に「iPhone」が発売されたときと同じように、ここ数カ月間はブログでiタブレットをめぐる数々の憶測が流れ、デザインの予想図が出回り、搭載される機能が議論された。アップルからコンテンツの開発を打診されたというソフトウエア制作会社からのリーク情報も掲載された。

 しかしiタブレットは実際に、こうした前評判を裏切らない衝撃をもたらすかもしれない。この商品自体が持つ威力ではなく、タブレットPCが情報伝達の方法を一変させるかもしれないからだ。

 バニティ・フェア誌などの編集長を歴任し、現在はニュースサイト「デーリー・ビースト」を運営するティナ・ブラウンいわく、私たちは「ジャーナリズムの黄金時代」を迎えようとしている。私も同感だし、タブレットPCがその変化を加速させると考えている。

ネットメディアの第2章

 タブレットPCは動画や音楽を流したり、文章を表示することができる。操作は指で画面を触るだけ。一番重要なのは、インターネットに常時接続できることだ。iPhone利用者は体験済みだが、常時接続は極めて大きな変化をもたらす。ネットはもはや「行き先」でも「接続先」でもない。空気のような存在になりつつある。

 タブレットPCは画面が大きく、複数のウインドーを表示できる。反応は速く、バッテリー駆動時間は長い。画面上で新聞を開き、記事の横に動画を表示したり、必要な情報だけ見られるようカスタマイズできる。さらにテレビやオーディオ機器、電話としても使える。

 コンテンツを作る私のような人間にとって、こうした変化は素晴らしいものだが、同時に恐ろしくもある。情報伝達の強力なツールが出てくることは素晴らしいが、一方で旧来型の情報伝達の方法にこだわっていると淘汰される。

 かつてメディアは業界ごとに分かれ、「活字の人々」と「映像の人々」は違う表現方法を持っていた。だが今は、その区分けが崩れつつある。人生の大半を英語で過ごしてきた人が、他の言語やそこから派生した新言語を学ばざるを得なくなったようなものだ。

 ネットメディア時代第2章の始まりだ。第1章では、ネット上でも昔と同じことをやっていた。新聞や雑誌から記事を選んで、サイトに載せる。書籍をキンドルのようなブックリーダーで発刊する。テレビ番組や映画を動画投稿ウェブサイトYouTubeで流す。

新しい手法は新世代から

 新メディアが登場した当初は、こうしたことが起きるものだ。初期のテレビは、コメディアンのミルトン・バールのようなラジオ界のスターをバラエティー番組に起用した。いわば動画付きラジオだ。

 だが、やがてデービッド・チェース(『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』の脚本)やラリー・デービッド(『となりのサインフェルド』の初代プロデューサー)といった製作者が登場し、テレビならではの世界観や新しい表現の形を生み出した。興味深いことに、こうした新世代の製作者はいずれもテレビ放送が始まった1940年代に生まれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、ウォン安への警戒強める 企画財政相「必要なら

ワールド

マクロスコープ:意気込む高市氏を悩ませる「内憂外患

ワールド

ドイツ、連邦・州のドローン防衛を統合 ベルリンに初

ビジネス

次期FRB議長は「大幅利下げを信じる人物」=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中