最新記事

問題はガザよりもイランの核保有だ

イラン動乱の行方

改革派と保守派の対立は
シーア派国家をどう変えるのか

2009.06.26

ニューストピックス

問題はガザよりもイランの核保有だ

駐米イスラエル大使が語る本当の不安

2009年6月26日(金)12時41分

 サライ・メリドールが駐米イスラエル大使に就任した06年以来、イスラエルにとって最大の戦略的な懸念は一貫してイランであり続けてきた。ガザでの戦闘が激化した今も、それは変わらない。情報当局出身のメリドールは、イランが今年中にも核弾頭の製造能力を得ると主張し、アメリカなどの同盟国が介入しなければイスラエルは軍事行動も辞さないと言う。メリドールに、本誌編集幹部らがニューヨークで話を聞いた。

----CIA(米中央情報局)によれば、イランは2015年までに核保有が可能になると言うが。

 最大の懸念は中東の不安定化だ。核が中東域外に拡散するおそれもある。そうした事態が起きるのは、イランが核をミサイルに搭載する技術を保有した後とはかぎらない。イランの核保有が現実味を帯びるほど、近隣諸国はイランに核があることを前提に振る舞うようになるだろう。

----イランの核開発はどこまで進んでいるのか。

 最新の国際原子力機関(IAEA)の報告書では、イランの低濃縮ウランの備蓄量は630キロだ。その前の報告では480キロだったのだから、1日2・5キロ近くのペースでウランを濃縮している計算になる。
 しかも、この数カ月で技術的に大きな進歩を遂げた。イランが核兵器を造るのにどれほどの低濃縮ウランが必要かは専門家によって意見が異なる。だが少なく見積もっても、今年中に核保有国になるだけのウランを手に入れるだろう。

----イランの核保有が地域に与える影響は?

 イランがウラン備蓄を増やすだけでも、アラブ諸国は冷静でいられるだろうか。ペルシャ湾岸諸国まで、ここに来て突然民生用の原子力開発に乗り出しはじめた。トルコもエジプトもだ。地域の不安定化が加速する一歩手前まで来ている。中東全域に核が一気に拡散するおそれもある。

----イランの政治的影響力が拡大していることについては?

 湾岸諸国にとって、イランの覇権拡大は脅威だ。まずバーレーン。人口の70%がシーア派イスラム教徒で、イラン(ペルシャ)の支配下に置かれた歴史をもつ。サウジアラビアも、石油が豊富な地域では住民のおよそ15%がシーア派だ。中東全体で過激派が台頭していることも不安材料だ。レバノンはもはや国家として機能していないし、パレスチナも(穏健派と過激派で)分断されている。

----イランは現状でも中東の大国であり、体制の存続に不安がある以上、地域の安定を揺さぶるようなことはしないとの意見もあるが。

 そんなご託を信じるか、アラブ諸国に聞いてみればいい。

----アラブ諸国は中東地域の勢力再編を模索するだろうか。

 北朝鮮と違って、現政権下のイランは地域の覇権だけでなく、グローバルな野望をもっている。彼らの言動をみれば一目瞭然だ。イランにしてみれば革命の防衛が先決かもしれないが、体制維持だけが目的ではない。革命を広げるために、革命を守ろうとしている。

 彼らは、自身のイデオロギーがイスラム世界の正しき理念だと信じている。欧米の価値観や世界秩序に反旗を掲げることもそのイデオロギーの一部だ。

 彼らがレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラを通じて地域に脅威を与えていること、そしてヨーロッパ各地でイスラム教徒を扇動し、社会の健全性に打撃を与えていること。この現実が彼らのイデオロギーと意図を物語っている。彼らの行動をみれば、体制維持だけが目的だという主張を信じる気にはなれないはずだ。

----効果的な制裁の条件は?

 イランのアキレス腱を突ける、はるかに強力な制裁が必要だ。イランに原油はあっても、石油精製施設はない。石油製品を輸入しなければならないことが弱点だ。

 イラクでの教訓から、原油収入がイランでどう使われているかを監視する必要がある。つまり、原油収入が食料などの必需品に向けられていて、革命防衛隊には流れていないかどうかを監視しなければいけない。

 原油価格が1バレル=100〜120ドルという水準では、いくら経済的に圧力をかけても無駄だった。だが40〜50ドルに下がれば、制裁の効果が出てくるはずだ。

----中東で民生用の原子力開発が活発化していると言うが、それは中東に限った動きではない。イランとは無関係ではないか。

 問題は「なぜ産油国が」ということだ。資源がない国なら話はわかる。だが、膨大な石油をもつ国になぜその必要があるのか。

[2009年1月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁設立が大幅遅延

ワールド

韓鶴子総裁の逮捕状請求、韓国特別検察 前大統領巡る

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

首都圏マンション、8月発売戸数78%増 価格2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中