コラム

コロナ疲れのアメリカ人が求めるバラク・オバマという癒し

2020年05月26日(火)11時15分

「バーチャル卒業式」のスピーチで現在の指導者を批判したオバマ YOUTUBE/CHASEーREUTERS

<大統領選挙を控えるトランプが今でも厄介に感じる前任者の影響力とは>

5月10 日の母の日、トランプ米大統領は愛息バロンの母親であるメラニア夫人よりもツイッターに多くの時間を費やし、100を超える前代未聞のツイートを連発した。

20200602issue_cover200.jpg

なかでも最も目についたのは、奇妙で不可解なオバマ前大統領への攻撃だ。オバマは歴史上最大の政治犯罪に関与したと、トランプは主張した。その犯罪とは何かとホワイトハウスの記者会見で問われると、トランプは「オバマゲート」と答えた。犯罪の具体的な中身には触れなかったが、「明々白々」で誰もが知っていることだと主張した。

オバマはアメリカ史上最もクリーンな政権を率いた大統領だった。一方、米連邦最高裁は今もトランプの犯罪や金融上の不正行為を捜査するかどうかを審理している。自分の犯罪の隠蔽に必死の大統領が、前任者の犯罪を創作してみせたわけだ。どうやらオバマゲートとは、オバマ政権が次期トランプ政権を妨害するため、ディープステート(国家の内部で国家を動かしている機関)を指揮してロシアとの共謀のぬれ衣を着せたという疑惑のことらしい。

中立的立場のコメンテーターや捜査員によって徹底的に論破され、嘲笑された主張だが、この陰謀論からトランプがオバマの存在を強く意識していることが分かる。11月の大統領選で再選を狙うトランプにとって、オバマは厄介な障害物として浮上しつつある。

過去への郷愁が持つパワーは強力だ。新型コロナウイルスの脅威によって不確実性が高まっている今、穏やかで学者然とした前大統領の再登場は、比較対象となるトランプをいら立たせている。

アメリカでは4月から5月にかけて、この国で最も偉大なアスリートにしてプロバスケットボールNBAの元スーパースター、マイケル・ジョーダンの10 時間のドキュメンタリーが放映され、人々を魅了した。オバマとジョーダン。現代において最も尊敬を集め、愛され、大きな業績を残した2人の世界的アイコンだ。両者にはシカゴという共通点もある。

ジョーダンはシカゴ・ブルズを6度の優勝に導き、シカゴを地元とする上院議員だったオバマはアメリカを金融危機から救った。このドキュメンタリーは、アメリカ人の過去への強い郷愁を象徴するものだ。大のブルズファンとして知られるオバマは、アメリカが大きな痛みと喪失感の中にある今、ジョーダン並みの鮮やかさで再び姿を現した(このドキュメンタリーにオバマは「元シカゴ市民」の肩書で出演している)。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ダウ330ドル超安 まちまちの

ワールド

米、ロシア石油大手ロスネフチとルクオイルに制裁 ウ

ビジネス

NY外為市場=英ポンド下落、ドルは対円で小幅安

ビジネス

米IBM、第3四半期決算は予想上回る AI需要でソ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story