Picture Power

匿名の若き写真家が見た 68年、プラハ

Prague's Summer of Hate

Photographs by Josef Koudelka

匿名の若き写真家が見た 68年、プラハ

Prague's Summer of Hate

Photographs by Josef Koudelka

戦車が進攻する前のバーツラフ広場、時計の針は12時半を指す

 1968年8月20日深夜。ソ連率いるワルシャワ条約機構軍がチェコスロバキアのプラハに進攻しようとしていた。ビルの上に陣取った30歳の若き写真家は、戦車がやって来るのを待ち構えていた。ファインダー越しに見える閑散としたバーツラフ広場は、自由化運動「プラハの春」の終焉に向けたカウントダウンを静かに告げていた。その日から1週間、戦車が街を埋め尽くし、家や車は炎に包まれた。市民は彼らの英雄であるチェコ共産党のアレクサンデル・ドプチェク第1書記の名を叫び、激しく抵抗を続けた。だが結局、自由化に向けた動きは封じ込められた。

 この写真家が市民の攻防を記録した白黒のルポルタージュは、秘密裏に西側へ持ち出された。翌69年、「プラハの写真家」という匿名のまま発表され、栄誉あるロバート・キャパ賞を受賞する。自分と家族の身の安全を守るために彼は匿名を貫いたが、国を離れた後も数々の賞を受賞した。

 ジョセフ・クーデルカがその写真家は自分だと名乗り出たのは、チェコにいる父親が亡くなった後の84年。伝説となった彼の作品は、写真展『ジョセフ・クーデルカ プラハ1968』(東京都写真美術館で7月18日まで開催中)で見ることができる。

ジョセフ・クーデルカ:
 1938年チェコスロバキア生まれ。プラハ工科大学で航空学を学び、航空エンジニアとして働きながら、独学で写真を撮り続ける。舞台写真家として活動しつつ、ロマ(ジプシー)を撮影した作品が高い評価を得る。さらにロマの取材をルーマニアで続け、帰国した翌日にプラハが戦車に埋め尽くされた。当初は、ジャーナリストとして写真を発表することは想定しておらず、自らの身に起きた事象を捉える市民の視点で撮影されている。

 Photographs by Josef Koudelka-Magnum Photos Tokyo

 [2011年5月25日号掲載]

MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中