Picture Power

文化も俗世も性も超越する霊媒師たち

TRANSCENDENTS

Photographs by MARIETTE PATHY ALLEN

文化も俗世も性も超越する霊媒師たち

TRANSCENDENTS

Photographs by MARIETTE PATHY ALLEN

ミャンマー第2の都市マンダレーの儀式で、師(右端)に付くトランスジェンダーの新人霊媒師

色とりどりの布が掛けられ、絵や供物や装飾品が並ぶなか、鮮やかな衣装で「彼女たち」が舞い踊る。儀式をつかさどるのは心と体の性が一致しないトランスジェンダーの霊媒師だ。

アメリカなどで多様な性に生きる人々を撮り続けてきた写真家マリエット・パシー・アレンは3年前、タイとミャンマー(ビルマ)のトランスジェンダー霊媒師にレンズを向け始めた。タイのチェンマイやミャンマーのマンダレーなどで彼らの祭礼や日常を追い、写真集『トランスセンデンツ』にまとめた。

共に仏教国であるタイとミャンマーだが、仏教以前の精霊崇拝も深く根付いている。古来、霊媒師を務めるのは女性の役目だった。だがここ数十年で、同性愛の男性やトランスジェンダー女性の霊媒師が急増。俗世と精神世界をつなぐ彼らは、尊敬される存在だ。ビジネスを始める時期、結婚式の日取り、病気の子供の治療法......。助言を得ようと、人々は列を成す。

彼らは誰とでも気軽に接する。分け隔てなく楽しげに。どうやら性生活も満喫しているらしい。テクノロジーを使いこなし、スマホでセルフィーに興じる彼ら。その存在は、伝統も革新も、西洋も東洋も、男性と女性さえも超越している。

【MYANMAR】
ミャンマーで精霊と交信する霊媒師の主な担い手は、女性からトランスジェンダーの女性や同性愛者の男性へと変化した。同性愛が法的に禁じられているミャンマーだが、彼らは人々の尊敬を集め、受け入れられている。

【THAILAND】
多様な性に対して寛容なタイ。憑依型の霊媒師は「マーキー(馬乗り)」と呼ばれるが、その守護霊は男性であることが多い。トランスジェンダー女性が女装し、男性の霊を体現する――彼らは幾重にも性を反転させる。


撮影:マリエット・パシー・アレン
ニューヨークを拠点とするアメリカ人の写真家、ライター、活動家。1978年から、既存のジェンダーに当てはまらない人々をテーマに取材。キューバのトランスジェンダー・コミュニティーについての写真集『トランス・キューバ』をはじめ、多くの著作がある。本作は最新写真集『トランスセンデンツ』からの抜粋

Photographs from "Transcendents: Spirit Mediums in Burma and Thailand" by Mariette Pathy Allen, published by Daylight Books

[本誌2017年12月19日号掲載]



【お知らせ】

『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』

PPbook.jpg本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。

スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン

新聞、ラジオ、写真誌などでも取り上げていただき、好評発売中です。


MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中