コラム

日本の言論統制は中国なみ?

2010年08月17日(火)17時04分

 先日、日本の「言論NPO」と英字紙チャイナデイリー紙を発行する中国日報社が実施している日中共同世論調査の今年の調査結果が発表になった。「中国人の対日感情は改善している」という調査結果は日本の主要メディアの既報通りだが、資料を見ていて奇妙なデータが目に留まった。

 双方のメディア報道に関する意識調査で、「相手国に報道・言論の自由はあるか」という質問に対して「実質的に規制されている、あるいは自由がない」と答えた回答した中国人が63・1%もいたのだ。しかも数字は昨年より増えている(09年は53・5%)。自国メディアが客観報道をしていると信じている中国人も61・8%に上った(こちらは前年の72・5%より減った)。

 日本には報道の自由がない? 中国メディアが客観報道をしている? まるで日本人の「常識」と正反対だが、哀れな中国人が勘違いしている、と結論付けるのは少し待ったほうがいい。

 まず日本の報道が「実質的に規制されている、あるいは自由がない」というのは、あながち間違いではない。国家権力による検閲こそ憲法によって禁止されているが、例えば検察を報道する司法記者がいつでも自由に検察批判できるか、といわれれば答えはノー。天皇制や部落差別、ヤクザに関わる自主規制もマスメディアにはいまだに存在している。

「中国メディアが客観報道している」というのはどうひいき目に見ても厳しいが、それでもネットの普及に伴うメディアの多様化によって、中国共産党指導部という「最後のタブー」を除いてかなりの部分が客観報道に近づいている。61・8%という数字は、それこそ「文化大革命のころに比べて」というエクスキューズが回答した中国人の頭の中で無意識に働いた結果なのかもしれない。

 アンケートに答えた中国人すべてが日本語を理解してインターネットで日本メディアの報道ぶりをチェックしているはずはないから、回答はあくまでイメージを反映したものに過ぎない。それは必ずしも中国メディアがつくりあげた「虚像」ではないだろう。むしろ「いかなる国のマスメディアもしょせん権力やタブーによる規制を逃れられない」という中国人の「達観」であるように思える。

 ちなみに中国人の「自国メディアが客観報道しているとは思わない」との回答は29・3%で、前年の17・6%から大幅に増えた。国際的に見てもまともな市民感覚が中国国民の間で確実に育ち始めている。このデータはその証拠といっていい(日本人の同じ質問に対する同じ回答は28%だった)。

――編集部・長岡義博

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story