コラム

経済常識のニューノーマル

2010年04月07日(水)11時00分

 「ニューノーマル(新しい普通)」という新語の意味を何より実感したのは、中国が自動車販売でアメリカを抜き、世界一になったと聞いたときだろうか。

 数字を見るとその逆転ぶりがより生々しい。09年の米新車販売台数は前の年より21.2%減って1042万9533台。一方の中国は前年比46・2%増の1360万台だという。

 中国は既に外貨準備で日本を抜き、今年はGDP(国内総生産)でも日本を抜くが、自動車販売台数で早くもアメリカを抜き去ったことのほうがはるかに衝撃的だった。中国の消費拡大の速さは予想以上だったが、それ以上にアメリカの凋落ぶりが凄まじい(米自動車販売は05年のピーク時から4割も縮小した)。

 ニューノーマルは、世界最大の債券運用会社PIMCOの共同最高経営責任者ビル・グロスとモハメド・エラリアンが昨年、世に広めた言葉。いま世界が経験しているのは通常の景気循環ではなく経済秩序の再構築であり、リーマンショック後の世界経済は以前とは別物になる。そしてその別物が常態になる、というものだ。

 ニューノーマルの世界では、アメリカ経済は低成長に止まり失業率も高いまま。金融危機の前まではひとり世界経済を牽引してきたアメリカの個人消費が復活することもない。もしトヨタ自動車でまた大量リコールが起こったら、豊田章男社長は単に中国に行くだけでなく、アメリカより「先に」中国やインドに行くことになるかもしれない。世界経済の多極化だ。

 今の経済を見ていると、ニューノーマルという言葉をあてはめたくなる現象が他にもたくさんある。よりアングロサクソン的でない市場を作ろうとする動き、政府の役割の拡大と財政危機、ドルと人民元のせめぎ合い......。ビジネスでも投資でも、そのニューノーマルを先取りするところにチャンスがあるのだろう。

*4月7日発売の本誌「世界経済超入門」は、経済の最新常識をやさしく解説する特集です。この特集の理解をさらに深めるために金融危機をおさらいするウェブ特集「ウラ読み世界経済ゼミ」は4月12日にアップします。

--編集部・千葉香代子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領府長官が辞任、和平交渉を主導 汚職

ビジネス

米株式ファンド、6週ぶり売り越し

ビジネス

独インフレ率、11月は前年比2.6%上昇 2月以来

ワールド

外為・株式先物などの取引が再開、CMEで11時間超
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    筋肉の「強さ」は分解から始まる...自重トレーニング…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story