コラム

普天間移設先の新・有力案はパクリ?

2010年03月18日(木)11時00分

 普天間の移設先にまた新たな案が浮上した。沖縄本島中部うるま市の東海岸から太平洋に突き出した、米軍ホワイトビーチがある勝連半島(与勝半島)の沖合に巨大施設を造り、普天間飛行場の機能と那覇空港に駐屯している航空自衛隊のF15戦闘機部隊を移すというものだ。

 平野博文官房長官はこの案を「自分の案」だと説明しているらしいが、どちらかというと「パクリ」に近い。05年に当時大阪大学大学院の助教授だったロバート・エルドリッジが提案したものと酷似しているからだ。エルドリッジの案は、勝連半島の沖合に大規模施設を作り、那覇空港の航空自衛隊および米軍嘉手納基地のF15部隊を移して自衛隊管理下の基地にする、などを盛り込んだものだったが、結局06年の日米合意には反映されなかった。

 現在、エルドリッジは在沖米海兵隊外交政策部(G5)の次長を務めており、大阪大大学院時代前に在沖海兵隊の顧問を務めたこともある。そんな経歴をもつ人物が考案したプランをベースにしているだけに一見、海兵隊の理解も得られそうにも思えるが、平野が思っているほど「一番ベター」な案かどうかは微妙だ。

 地元のうるま市が反対しているだけではない。勝連沖案は海兵隊だけでなく、自衛隊を巻き込む構想なだけに、調整がさらにややこしくなるだろう。また、環境への負荷が現行案より軽いとされているが、本当だろうか。

 仮に自衛隊のF15戦闘機部隊などとも共用する施設を作るとなると、大規模な滑走路の建設が必要となる。1020ヘクタールの人工島を造る構想らしいが、事実だとすれば羽田空港と同じくらいの面積になる。これでは、素人目に見ても環境への負荷が軽減されるとは思えない。また、これほどの大規模な代替施設の建設が、06年の合意で定められている2014年の期限までに間に合うのか、疑問は尽きない。

 そもそも、エルドリッジ氏がこの案を出したのも沖縄の基地問題で「包括的で長期的な解決策」を見出すためのもので、「大手術」が必要だという考えがあるから。これほど壮大な構想を、鳩山政権が設定した5月末の期限までに必要な調整を済ませようとするのは無謀とも思えるのだが......。

──編集部・横田 孝

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

再送-米ロ首脳、イスラエル・イラン情勢で電話会談 

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ

ワールド

アングル:「暑さは人を殺す」、エネルギー補助削減で
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 10
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story