狂気を描く映画『清作の妻』は日本版『タクシードライバー』
アメリカン・ニューシネマの代表作の1つである『タクシードライバー』のトラビスは、街で見掛けた売春婦の少女アイリスへの思慕を契機に、複数の人を射殺する。犯行直前にモヒカンに頭を剃るトラビスは、まさしく狂気を体現している。
でもその狂気の源泉は何か。彼をベトナムの戦場に送った国家だ。そもそもトラビスの最初のターゲットは、次期アメリカ大統領候補だった。国(全体)の狂気は個へと感染する。こうして戦争や虐殺が起きる。
つまり『清作の妻』は日本版『タクシードライバー』だ。決して声高ではないが、反戦へのメッセージも充塡されている。
そして最後に用意されていた狂気は、清作とお兼との至高の愛でもある。恋とは狂うこと。増村のそんな囁(ささや)きが聞こえてくる。
『清作の妻』(1965年)
監督/増村保造
出演/若尾文子、田村高廣、成田三樹夫、紺野ユカ
<本誌2022年7月12日号掲載>
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