コラム

「顔の俳優」高倉健は遺作『あなたへ』でも無言で魅せた

2020年08月29日(土)14時30分

遺骨を故郷の海に散骨してほしい。それが亡き妻の遺言。男はワンボックスカーで妻の故郷に向かう。典型的なロードムービーだ。道中で男は多くの人に会い、在りし日の妻を思い、人生について考える。よくできた映画ではない。現在と過去のカットバックがうまく消化できていないし、ラストもちょっと唐突だ。でも高倉の顔がいい。やっぱり語らない。無言の表情で気持ちを語る。だから観る側は想像する。そして切なくなる。観終えてしみじみ思う。日本にもこんな俳優がいたんだと。いやもしかしたら、日本だからこそ、なのかもしれない。

houga200829-pic01.jpg『あなたへ』
©「あなたへ」製作委員会
監督/降旗康男
出演/高倉健、田中裕子、佐藤浩市

<本誌2020年4月14日号掲載>

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プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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