BOOKS

日本の覚醒剤の3割は、米軍の横流し?北朝鮮から直行便?──驚きの証言

2021年11月25日(木)12時45分
印南敦史(作家、書評家)

北朝鮮と米軍基地には直行便があり、横田基地などを通じ、密輸ではなく堂々と"輸入"されているというのだ。相応の説得力があり、しかしその半面、にわかには信じられない話でもある。

著者もはなから信じることはできなかったようだが、調べた結果、少ないながらも北朝鮮と横田基地を結ぶ直行便が存在することを示す記述や画像を見つけることができたという。

また、本書ではそのことに関する何人かの証言も明かされている。例えば、ある米国政府関係者は、「あくまで米軍関係者から聞いた話だということをご了承ください」と前置きしたうえで、次のように話している。


「長く覚醒剤のシノギをやっていると、ヤクザ同士の横の繋がりからどこの組織が密輸した荷物かが分かる。でも最近は、出どころ不明のシャブが市場に出回っている。だから米軍経由で横田から入っていると確信していると、実際に基地でのシャブの取引に誘われたヤクザから聞いています」
「報道の通り、まず、北朝鮮から横田基地への直行便はあります。そして横田基地を拠点に麻薬が日本へ入って来ているのも、事実。空路もそうですが、海路も使われてる。むしろ海路の方が主流ですね」(225ページより)

このように重要証言が次々と明かされていくのだが、残念ながら著者は最終的に決定的な"真実"には辿り着くことができなかった。


僕にいまあるのは、警察幹部が被疑者に対して行った密室での取り調べを"秘話"として語れば真実だとされるが、ことヤクザが語れば信憑性が担保されない話として片付けられてしまう、そのジレンマだ。いずれにせよ、僕にも全てが一〇〇%真実だとは言い切れないことが悔やまれる。(229ページより)

その悔しさが手にとるように分かる結末である。しかし、だからこそ逆説的にリアリティを感じることができるのもまた事実。果たして何が"真実"であるのかは、読者ひとりひとりが判断すべきなのかもしれない。

覚醒剤アンダーグラウンド
 ――日本の覚醒剤流通の全てを知り尽くした男』
 高木瑞穂 著
 彩図社

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。


今、あなたにオススメ

注目のキーワード

注目のキーワード
トランプ
投資

本誌紹介

特集:2029年 火星の旅

本誌 最新号

特集:2029年 火星の旅

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

2025年5月20日号  5/13発売

MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

人気ランキング

  • 1
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 2
    宇宙から「潮の香り」がしていた...「奇妙な惑星」に生物がいる可能性【最新研究】
  • 3
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習い事、遅かった「からこそ」の優位とは?
  • 4
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食…
  • 5
    戦車「爆破」の瞬間も...ロシア軍格納庫を襲うドロー…
  • 6
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 7
    対中関税引き下げに騙されるな...能無しトランプの場…
  • 8
    トランプに投票したことを後悔する有権者が約半数、…
  • 9
    サメによる「攻撃」増加の原因は「インフルエンサー…
  • 10
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 8
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
もっと見る
ABJ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。