最新記事

メルマガ限定ページ

指紋ハッキング vs. 生体認証の新技術

2017年04月19日(水)18時30分

抜け穴のないセキュリティーシステムなど存在しないし、安全を重視し過ぎれば利便性が失われると専門家は言う Catur Kurniawan-Eyeem/Getty Images

<写真から指紋を複製できる時代に、鉄壁のセキュリティーと利便性を追求したさまざまな生体認証の開発が進んでいる>

ポーズを決めてピースサインで、はいチーズ! よくある写真撮影の一こまで、何ら問題があるようには思えない。だが日本の研究チームによれば、このピースサインが思わぬハッキングの被害を招く恐れがあるという。

1月、国立情報学研究所(NII)の研究チームは、高解像度のデジタルカメラで撮影した写真から指紋データを復元できると発表した。カメラと被写体の間が3メートル離れていても、復元された指紋は本物とほぼ100%一致していたという。

もっとも、現時点ではパニックになる必要はなさそうだ。生体認証に詳しいミシガン州立大学のアニル・ジェイン教授は「実際にそんなことが起こる可能性は非常に小さい。照明、カメラと人の間の距離、指の向きといったあらゆる条件がそろわなければならない」と言う。

NIIの研究から得られる教訓は、あらゆるセキュリティーシステムには欠陥があり、生体認証も例外ではないということだとジェインは言う。最近ではスマートフォンのロックを解除したり、ネットショッピングしたり、コインロッカーを開けたりするのにも指紋認証が使われる。空港の入国審査やセキュリティーの厳しい建物の入り口では、目の虹彩のスキャンが行われている。

「利便性とセキュリティーのバランスを取るのは難しい」と、カナダ・カルガリー大学のトーマス・キーナン教授は言う。「私が懸念しているのは、生体情報は変えられないということだ。クレジットカードの番号と違い、何かあったからといって新しいものに替えてくれということはできない」

近年、生体認証の業界では指紋を読み取るだけでなく、その指が本物で生きた人間の体につながっているか、つまりシリコン製の複製や切り取られた指でないかどうかを検知できるスキャナーのような技術に注目が集まっている。

カナダの新興企業ニミはさらに一歩進めて、人それぞれに異なる心拍のパターンを検知するリストバンド型端末を使い、ドアを解錠したりコンピューター端末などの認証を行ったりするシステムを開発している。ほかにも歩き方やキーボードの打ち方、果ては体臭に至るまでさまざまな身体的特徴を利用した認証の研究開発が進められている。

さらに進んだ生体認証技術が期待どおりの強固なセキュリティーをもたらすことができるなら、そのときはVサインで祝う価値はありそうだ。

サンディ・オン

[2017年4月18日号掲載]

MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中