コラム

トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔を捨てたカナダ首相は「悪」なのか?

2025年11月22日(土)16時56分

カナダはここ数年、市民社会の圧力とパートナーシップの下、脱炭素化に向けて前進してきた。パリ協定の目標に自らを拘束する法律を制定し、それを達成する包括的計画を立てた。暴走する石油・ガス部門の排出に上限を設ける規制案もまとめた。

激化する気候被害から国民を守るため初の国家適応戦略を策定。移行のあり方を決める議論の場に労働者や地域社会が正式に参加できるようにした。損失と損害では世界的リーダーシップを発揮した。ドイツと長年約束されていた1000億ドルの資金ロードマップも主導する。

「今そのすべてが引き裂かれている」

これまでの前進は地域社会、労働者、先住民族のリーダー、若者、市民社会が諦めなかったから実現した。「今そのすべてが引き裂かれている。カーニー氏は10年分の進歩を破壊してきた。わずか数カ月の間に」とCANは憤りをぶつける。

数日前に発表された液化天然ガス(LNG)拡張を含む新たな「大型プロジェクト」路線はまさに「非公正な移行」の教科書的事例だという。地域社会を通過する形で化石燃料やインフラ開発を強行し、先住民族の権利(自由意思による事前の十分な合意)を無視している。

「カーニー氏がCOP30に姿を見せないこと自体が多くを物語る。来年以降の新たな気候資金コミットメントを発表しなかったことも同様だ。資金不足と最前線の危機がCOP30の核心テーマとなっている今回の会議で極めて重大な責任放棄だ」(CAN)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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