コラム

テクノロジーでスポーツは激変...それでもメッシは、「主役はやはり人間」と証明した

2022年12月22日(木)18時18分
アルゼンチン対フランス戦

アルゼンチン対フランスの決勝戦(12月18日) Kai Pfaffenbach-Reuters

<今回のW杯でも最先端テクノロジーによる競技性の変化が浮き彫りになったが、一方でメッシやムバッペは人間の無限の可能性を示した>

サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会はバロンドール(最優秀選手賞)史上最多7度受賞のリオネル・メッシ率いるアルゼンチンが、若き英雄キリアン・ムバッペを擁し60年ぶりのW杯連覇を目指すフランスをPK戦の末、制して熱戦の幕を閉じた。死力を尽くした闘いは改めて人間の無限の可能性を私たちに実感させてくれた。

悲願のW杯を掲げるメッシの写真はインスタグラムに投稿され、史上最高の7070万件の「いいね」がついた。W杯を抱いて眠るメッシの写真に反応した「いいね」は5020万件。人工知能(AI)や最先端テクノロジーがいかにスポーツの世界を変えても、主役は「機械(マシーン)」ではなく「人間(ヒューマン)」であることに変わりはない。

筆者は日本代表の4試合とブラジル対セルビア選の計5試合を現地ドーハで観戦した。日本対スペイン戦で、田中碧選手の逆転ゴールがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で認められるまで待つ時間は心臓が止まる思いだった。三笘薫選手が折り返したボールはほんのわずかだが、ゴールラインを割っていなかった。不安は歓喜に変わった。

地上でも空中でもボール全体がゴールラインを完全に越えていなければ、プレーは継続する。VARでもスタジアムのどこから撮影したかでボールはゴールラインを割っているように見える。しかし同じシーンをより高い角度から撮影するとボール全体がゴールラインを越えていないことが理解できる。「ホークアイ(鷹の目)」と呼ばれる技術である。

VARで25件の判定が覆る

米スポーツ専門チャンネルESPNがカタール大会全64試合を分析した結果、VARにより審判の判定が覆った例は25件。維持されたのは2件。ゴールに関連するケースは6件、認められなかったゴールに関連するケースは10件。オフサイドでゴールが取り消されたのは8件、オフサイドの判定が間違っていてゴールが認められたのは2件、ハンド2件などだ。

VARがW杯に導入されたのは2018年ロシア大会が初めてだった。今大会ではボールにセンサーを埋め込んだ新しいトラッキング技術やAI、追跡カメラが半自動オフサイド技術(SAOT)として使用された。対カタール戦でエクアドルのゴールがオフサイドで無効に変わった後、元イングランド代表ストライカー、アラン・シアラー氏は英BBC放送でこううめいた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ナイジェリアでイスラム過激派空爆 「キリスト教

ビジネス

鉱工業生産11月は2.6%低下、自動車・リチウム電

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、個人の買いが支え 主力株

ビジネス

小売販売額11月は前年比1.0%増、医薬・自動車な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story