コラム

「人命軽視」エジプトの暗黒を、COP27の温暖化議論「優先」で見逃す欧米は正しいか?

2022年11月09日(水)12時05分

西側諸国のダブルスタンダード

獄中につながれたアブド・エル・ファタ氏は自由と民主主義、人権を錦の御旗に掲げながらエジプトの人権弾圧に見て見ぬふりをしてきた西側諸国のダブルスタンダードを浮き彫りにしている。「この状況を終わらせなければならない。英国大使館に面会させるか、エジプトを発つ飛行機に乗せるか、兄が死んで悪夢から解放されるかだ」とサナアさんは言った。

「3つのシナリオのうち何が起きても兄が勝利したことになると私は思っている。兄が犠牲にならないことを祈っている。母は兄の無事を確かめるため刑務所の門の外に立っている。兄が生きているかどうかさえ分からない。西側諸国の政府は エジプト政府との関係を変える必要がある。現在の関係はエジプトだけでなく、あなた方の国の国民のためにもならない」

「あなたたちの血税で軍事支援が行われているが、これ以上エジプトに武器は必要ない。あまりにも長い間、エジプトで人権が弾圧され続けてきたことを見直さなければならない。いま目の前にある現実がリアルポリティクスを再評価させ、彼らがどんな汚い取引をしているかが白日の下にさらされることを望む。言い訳はもう聞きたくない」

シシ大統領「数週間、数カ月のうちに結果を出す」

COP27の傍ら、シシ大統領はフランスのエマニュエル・マクロン大統領に民主活動家の健康を「確実に守る」ことと「数週間、数カ月のうちに結果を出す」ことを約束したと報道されている。アブド・エル・ファタ氏の解放を求めていくことをサアナさんに書簡で約束したリシ・スナク英首相もCOP27でシシ大統領に「英国政府の深い懸念」を伝えた。

「英国の首相には英国民に対する義務があり、不当に英国民が拘束されているのは英国にとっても屈辱的なことだ。しかし英国政府は兄に面会することも許されていない。エジプトが拒絶しているからだ。スナク首相には最善を尽くしてほしい」とサアナさんは訴えた。

COP27がエジプトの人権状況を改善させるきっかけになれば素晴らしいことだ。そのためには西側諸国が協調してシシ大統領をロシアのウラジーミル・プーチン大統領の方に追いやらないよう細心の注意を払いながら圧力をかけ続ける必要がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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