コラム

「人命軽視」エジプトの暗黒を、COP27の温暖化議論「優先」で見逃す欧米は正しいか?

2022年11月09日(水)12時05分

治安当局は政府に批判的だとして少なくとも6人のジャーナリストを逮捕した。シシ大統領の辞任を要求したジャーナリストのアブデルナセル・サラマ氏は逮捕され、他のジャーナリスト24人も「ソーシャルメディアの悪用」「偽ニュースの拡散」「テロ」などの罪で有罪判決を受けたり、捜査が保留されたりして刑務所に入れられていた。

治安当局は政府を批判したり、批判しているとみられたりする数百人を逮捕。当局は活動家や野党政治家を含む408人を「テロリスト・リスト」に加え、市民活動や政治活動に従事することや5年間の海外渡航を事実上禁止した。最高行政裁判所は「テロリスト・リスト」に載せられた弁護士6人の資格を剥奪する決定を支持した。

獄中200日以上もハンガーストライキを続ける人権活動家

COP27開幕3日目の8日、会場内の記者会見場で、獄中、1日に100カロリー以下しか摂取しないハンガーストライキを200日以上も続けるエジプト・英国の二重国籍者でブロガー兼ソフトウェア開発者のアラ・アブド・エル・ファタ氏(40)の妹サナア・セイフさん(28)が「兄が生きている証拠を見せてほしい」と国際社会の支援を訴えた。

アブド・エル・ファタ氏は活動家一家に生まれた。父親は治安当局に逮捕され、5年間投獄されたことがある人権弁護士。母親も数学教授で活動家だった。アブド・エル・ファタ氏は妻とともにアラブ初の自由なブログアグリゲーターを開設するとともに、ソーシャルメディアを通じて市民ジャーナリズムを促進する取り組みを支援してきた。

ホスニー・ムバラク大統領時代の2006年、司法の独立を求めるデモに参加して逮捕された。ムバラク大統領が失脚した11年のエジプト革命で脚光を浴びたが、その後は皮肉にも人権弾圧の苦しみの象徴となった。その年、コプト正教会の教会が取り壊されたことに反発するコプト教徒の抗議活動を扇動したとして逮捕された後も弾圧が続く。

19年に釈放されたが再び逮捕され、昨年末に、エジプトの刑務所内での人権弾圧を指摘する投稿をフェイスブックで共有し、虚偽のニュースを広めたとして5年の禁固刑を言い渡された。過去10年の大半を投獄で過ごした。今年4月からハンガーストライキを始め、世界にエジプトの人権状況を知らせるためCOP27が開幕した6日からは水を飲むのも拒否している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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