日銀「植田新総裁」に市場はひと安心...だが、学者ならではのマイナス要因も
経済学者の植田和男氏 AKIO KONーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<黒田時代の緩和路線からの緩やかな撤退が至上命題となっている日銀にとって、植田氏の総裁就任は大きなチャンスだが......>
政府は4月8日で任期を終える日本銀行の黒田東彦総裁の後任に、元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏の起用を決めた。国会の同意が得られれば、正式に総裁に就任する見通しである。
今回の人事は完全にサプライズであり、ほとんどの関係者が事前に予想していなかった。その理由は、次期総裁の本命とされていたのは、政府が就任を打診したとされる雨宮正佳副総裁だったからである。ところが、その雨宮氏は就任を固辞したと報道されており、植田氏に白羽の矢が立った。
植田氏は著名な学者であり、日銀審議委員という実務経験を持ち、日銀では緩和策の導入に際して理論面で支える役割を果たしてきた。加えてGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用委員長を務め、市場にも精通している。過去の論文を見ても、基本的にバランスの取れた金融政策を重視する立場であり、申し分のない経歴といってよい。
植田氏のこれまでの実績から考えると、黒田路線の継続について一定程度、重視する可能性が高く、急激な政策転換は考えづらい。実際、記者団に対して植田氏は、(総裁に就任することになった場合)「現状では金融緩和の継続が必要」と述べている。
こうした点から考えると、現副総裁として黒田路線を支え、必要に応じて緩和策の修正を行うと予想されていた雨宮氏と方向性については大きな違いがないように見える。急激な政策転換による市場の混乱を回避できるという点では、市場関係者にとっては一安心といったところだろう。
現在の金融政策は適切であるとの見解
だが、植田氏がどのような人物なのか、市場にまだ十分に浸透していないという現実を考えると、総裁就任後、植田氏の一挙手一投足に注目が集まるのは確実である。これは、緩和路線からの緩やかな撤退が至上命題となっている日銀にとって大きなチャンスであると同時に、場合によってはリスク要因にもなり得る。
植田氏は、学者だった自身の経歴から、金融政策における判断は論理的に行うと述べている。また、日銀が提示している景気と物価の見通しを踏まえ、現状の金融政策は適切であるとの見解を示している。
そうなると、植田氏は景気や物価の見通しを明確に示すフォワードガイダンスを継承し、論理的手順を踏んだ上で、前もって方針を表明するというスタンスで金融政策に臨む可能性が高い。
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